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日本の鉄道はこのままでいいのだろうか 19

線路は続く 目次

線路は続く10 大いなる不名誉

日本では鉄道マンが、「鉄道路線を廃止させてくれ」というジレンマを抱く・・
なんという不幸な国を作ってしまったのだろうか。


昨年テレビでJR北海道の路線維持活動が紹介された。

NHK「クロ-ズアップ」 2017年3月29日(水)

JR北海道で、鉄道の運行を司る部署の会議にカメラが初めて入りました。
話し合われていたのは、徹底したコスト削減です。
「圧縮して(自治体に)お示ししないと、ゼロベースだと話も聞いてもらえない」
自治体に協議に応じてもらうためには、求める費用負担を少しでも減らす必要があると考えているのです。
普通列車1本切ると、(削減額は)500万円くらい。
6本、減らして、3,000万円くらい」
この日の議論は、北海道北部を走る宗谷線旭川稚内を結び、北海道の背骨とも呼ばれています。
見直し区間は180キロ。 7つの自治体に及んでいます。 維持するためには、赤字の穴埋めや老朽化した施設の更新などに、毎年29億円が必要だといいます。
検討の対象は、あらゆる分野に及びます。
まず、あがったのは、およそ100か所ある踏切の維持費です。
「1か所でも百数十万円かかると思う、トータルすると。 そこをどう落とすか」
踏切をなくすと、人や車が線路を横断できなくなります。
地域の人に不便をかけますが、コスト削減のためには、やむを得ないという案です。
しかし、全体で必要な29億円には遠く及びません。
「この線区では何をやる? 経費節減で、大きなところで」
巨額のコストを減らすために、さらに踏み込んだ案も出ました。
定時運行に欠かせない除雪の費用です。
この路線だけで、ひと冬に2億円かかっています。
「(列車を)定時に走らせようと、かなりの頻度で、機械除雪やっている。 経費を縮減する方法として、初列車はなんとか確保しましょう。 それ以降はご迷惑をかけるかもしれません」
「列車が遅れるかもしれないってことですか」
「そう」
鉄道会社として固く守ってきた定時運行の理念をどこまで犠牲に出来るのか。 ぎりぎりの検討が続きます。


番組の中でJR北海道宗谷線の維持管理費用は「29億円」となっている。
そこで鉄道としてJR北海道宗谷線旭川駅稚内駅)と、自動車として国道40号線で同じく「旭川駅稚内駅」間を移動した比較を行った。

 

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国土数値情報を元に加工


鉄道では各駅停車1回乗り継ぎで距離296km、所要時間5時間24分、
特急利用では3時間47分
一方GoogleMapによる自家用車での距離は246km、所要時間は4時間12分と出た。

2009年度の予算と少し古い資料だが国土交通省北海道開発局のサイトから道路関係予算を拾った。

平成21年度 道路関係事業費 |北海道開発局

2009年度北海道開発局予算(単位百万円) km当たり
対象道路 6792km 道路補修関連 75,791 11.16
内高規格道路 225km 内訳道路維持予算 53,230  
一般国道 6567km

内訳雪寒a

22,561  

内訳の中「雪寒a」は雪に対する対策費(除雪・雪崩防止・地吹雪対策)である。これと道路維持予算の合計は757億9千万円となる。
そして開発局の所管対象道路6792kmから「km当たり」単価を出す。そして上記「旭川駅稚内駅」246kmの維持費を算定した。

鉄道2017年・道路2009年維持費比較 km当たり/百万円
鉄道:宗谷線 旭川駅-稚内 296km 29億円 9.79
道路:(旭川駅-稚内駅) 246km 27億45百万円 11.16

すると27億4千5百万円となった。
・このほかに北海道庁主管の道路があるのでその部分は予算がプラスとなる。(旭川駅から稚内駅までのルートでは大部分国道で道道は少ない)

なぜ鉄道「不公平政策」が続いたか

現状では鉄道・道路ほぼ同じような維持費がかかっている。しかし同じ維持費であるが道路は道路財源という税金で賄われ、同じ維持費を鉄道では事業者負担である。
上記の例のように道路は、当然人や物流の移動が多いところに作られる。それは鉄道も同じですなわち両者は競合することになる。下記指摘のようにその両者は同じルールの下で競っているのではない。

北海道教育大准教授・武田泉国土交通省の地方部局である北海道開発局に道路行政の任務は与えられているが、鉄道は一貫して対象外。
一方で鉄道に並行するような高規格道路をたくさん造っている。
JR北海道の経営がいくら悪化しても、鉄道は自前で面倒を見て、頑張れないならやめてくださいという話だ。
 日高線は高潮被害で不通になっている区間の護岸工事をJRがやるべきことになっている。なぜ国土保全のことまでやらなければいけないのか
 国には、最大限の多様な選択肢を作るための制度改革を望む。膨大な道路建設予算があるのは、我々がガソリン税を払っているから。
 欧米では交通税を鉄道など公共交通機関全般に転用されることがある。日本でも道路財源を鉄道にも使えばいいのではないか。
 上下分離という案が出るが、「上中下」分離という手段もある。道路、港、空港は上下が完全に分かれている。ところが鉄道だけは全部一体。
 上中下を分離する場合は、上が車両の運行を担うJR、中は車両保有などを行う道や第三セクター、下が線路などを保有する開発局や鉄道建設・運輸施設整備支援機構などの選択肢がある。
 今は限られた特定の枠組みでしか議論していない。国は分割民営化の失策を認めたくないのか動かず、さまざまな可能性が排除されたまま議論が進んでいる。柔軟に考えれば、もっと策はある」

このような不合理はいかにして発生したか・・
なぜ鉄道「不公平政策」が続いたか 杉山淳一の「週刊鉄道経済」鉄道開業から114年にわたり「鉄道の費用はすべて鉄道事業者が負担する」という仕組みだけだった。
実際には鉄道国有化の流れがあり、国が鉄道を負担した時代がある。
しかし民間鉄道については鉄道会社負担の原則だ。それはなぜか。
 簡単に言うと「鉄道がもうかったから」である。
明治5年に新橋~横浜間で鉄道が開業した翌年の数値を見ると、年間の旅客収入は42万円、貨物収入は2万円、経費は23万円。
つまり利益は21万円だ。利益率約5割。 こんなにおいしい商売はない。
もちろん沿線は活気づく。鉄道はもうかる。
 そこで全国の資産家や有志が鉄道建設に乗り出した。
 当時の国は「鉄道は国策であり国営であるべき」と考えていた。これは軍事輸送の観点も大きかった。利益の出る国営事業として独占したいという気持ちもあったと思われる。
 しかし、全国の幹線鉄道を整備する資金が明治政府にはなかった。そこで、どうしても鉄道を開業したいという者に対して、国が免許を与えた。
 ここから、民間鉄道は自己資本で鉄道を建設し、政府は免許を与えるという図式が始まっている。
しかし軍部の要請で1906年に鉄道国有法が施行され、北海道炭礦鉄道、日本鉄道(関東・東北方面)、山陽鉄道などが買収された。
これは戦時買収のような屈辱的な条件ではなく、かなり良い値段で買い取られた。  鉄道はもうかる。それは政府も承知だった。鉄道はもうかる事業ですよ、だから自己責任でやってください、という考え方が定着した。
 そしてなぜか、100年以上も経過して、この考え方のみ国策で改められていない。
国営鉄道(国鉄)は赤字で失敗した。本当はこのときに鉄道はもうからないという認識を持つべきだった。
そして、上下分離を実施し、鉄道と他の交通手段との不公平を解消すべきだった。  それを「民営化したからこれからはもうかる」と勘違いし、鉄道会社の自助努力に任せるという風潮につながった。
鉄道事業法によって免許制から許可制に緩和され、国の関与は小さくなった。建設許可も出しやすいけれど、廃止の許可も出しやすくなった。

実は民営化をして国鉄を分割し、儲かるところ本州3社と儲からないところ3島3社に分けただけなのである。
東海道新幹線から北海道新幹線までの総合計利益率は35.1%という高率である。国鉄分割民営化の時に新幹線と在来線を別会社としないことを大前提とした。
その前提のもと本州を区分するときに、首都圏と東海道新幹線という鉄道のドル箱路線をいかにするかという大問題があった。本州を2社に区分するとなると、当然首都圏を抱える社と東海道新幹線を抱える社とは分ける必要がある。そこで首都圏から以東の社と、東海道新幹線から以西の社に分けると、東海道新幹線山陽新幹線を持つ1社が鉄道収入・営業利益双方において巨大なものになる。このアンバランスを避けるために、本州を3社に分け、首都圏を主とするJR東日本東海道新幹線を主体とするJR東海、そして本州西部を担当するJR西日本が誕生した。
 この本州を3社に分割し鉄道収入に均衡を持たすという固定観念が間違っていた。東海道新幹線と宗谷本線ではあまりにも収支係数が違いすぎる。これを同じような組織で維持すると捉えた判断が間違っていた。
鉄道収入から判断して鉄道網を分割するには他にも案は考えられたはずだ。
例えば、新幹線を別機構にする。すると鉄道網の分割をするなら2社という形も見えてくる。
東は首都圏から東、北海道まで、西は静岡・長野・富山から西、四国九州まで。NTTの東西分割に近い。

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