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再びの(しかし最大の)ガザ緊迫に何を思うか? ―2023/10/13

パレスチナを憂う

西谷 修 ブログ 言論工房 Fushino_hito より

朝のNHKワールドニュース、France 2を見て状況の救いのなさにあらためて唖然、独ZDFもだ(アルジャジーラは残念ながら見てない)。
仏・独国籍のイスラエル人が数多く南部キブツのフェスティバルに参加していた(ヨム・キプール戦争の勝利を記念したフェスとも伝えられる)。
そこでハマスのコマンドの襲撃を受け、多くが死傷、その他は人質として女子供も老人もガザに連れ去られた。家族がパニック状態で救出を政府に訴える会見の模様、
ハマスの「暴虐」と「残虐さ」が浮かび上がる。砲撃を受けたイスラエルの市民の恐怖も。

NHKBS放送では朝6時台から「ワールド・ニュース」として欧米やアジア、そして中東アルジャジーラのニュース番組を数時間遅れで放映している。

 同時に、空爆を受けるガザの様子も伝える。縦40キロ、横14キロの狭い地域には220万の人びとが住む(人口密度は世界一)。
周囲は高い分離壁に囲まれ、出口はもちろん封鎖、侵攻に備えて戦車・装甲車が待機する。
ドローン撮影した壁の中の様子は、これまでの度重なる爆撃で破壊された街にさらにビルが爆破され、巨大な穴が瓦礫に埋まっている。
すでに30万人以上が住居を離れて避難するというが、行くところもない(学校も病院もハマスの軍事拠点ということで爆撃の標的になる)。
すでに電気が断たれ、水が回らない。食糧も封鎖で断たれた中、傷ついた子供を抱えた人びとが呆然自失する。

 もともとガザ地区の封鎖そのものが国際法違反だが(分離壁もアパルトヘイト以上)、イスラエルに対する国連の非難決議はつねに米国の拒否権行使で斥けられてきた。
ハマスは「ガザを実効支配するイスラーム武装組織」として米国やイスラエルに「テロリスト」認定されている。
だが、ハマスはアルカイダのような国際戦闘集団ではない。
もともとは、PLOがパレスチナ解放闘争を主導していた頃からその「国際主義」に距離を置いて、この地域の人びとの生活を支えてきたイスラーム互助組織だ。
それがPLOの「変節」とともに「過激化」し、「軍事部門」を設けてとくにガザで対イスラエル闘争の前面に立つことになった(世界で、
いわゆる社会主義圏が崩壊し、アラブ世界ではイラン革命以降のイスラーム回帰が言われた時代だ)。
だからこの組織は地域生活に基盤をもち、イスラエルの強烈な軍事支配(恒常的占領支配)に対する民衆の怒りの爆発(インティファーダ)の支えにもなった。
するとイスラエル当局は、ハマスを最悪の敵とみなし、ガザ民衆の畏敬を集めていた老指導者ヤシン師が、モスクから出てきたところを車椅子ごとミサイルで爆殺したのである(2004年3月)。

 日本でもこれが公式名称になっているが、「ハマス」の本義は「イスラーム抵抗運動」である(PLOはバレスチナ解放機構)。
しかし米国はじめ西側諸国が「テロリスト」認定しているため、つまり政治的正統性を剥奪しているため、「イスラーム抵抗運動」という呼び方を斥けて使わない。
2006年のパレスチナ評議会選挙ではハマスはPLOを抑えて多数派となった。
ところが、国際監視下で行われたこの選挙結果を、イスラエルはもちろん西側諸国は認めなかった。
その結果ハマスは、パレスチナ内部の分裂を避けて、ガザ地区のみの統治に甘んじることになった。
それ以降、西側はヨルダン川西岸のPLO(アッバス)のみを「交渉相手」とし、イスラーム抵抗運動(ハマス)を「ガザを実効支配するイスラーム武装勢力」と呼ぶ。
しかしハマスは事実上ガザ地区の選挙で選ばれた「政府」なのであり、ガザ住民の生活全般に責任をもっており、それが学校や病院その他の施設を維持し運営するのは当然のことである
(それをニュースは、ハマスが学校も病院も運営しており、そこも軍事拠点になっているのでハマスだけを攻撃するのは難しい、などと解説する。
ということはガザ住民には政府をもつ権利はなく、イスラエルに管理される家畜であれ、と言うようなものである。)

 ふと思い出す沖縄本島よりずっと狭いところに240万もの人びとが20年来雪隠詰めになっている。

欧米が生んだ反ユダヤ主義

西洋(米欧)諸国はイスラエルがホロコーストを体験したユダヤ人の作った国だからということで、その「歴史的負債」からイスラエルの「権利」をまず擁護する。
各国のユダヤ人たちも、祖国をもたなかったために迫害された自分たちが初めて得た「祖国」だということでイスラエルに愛着し、
そのイスラエルを「憎悪」し敵対するアラブ人たち(パレスチナ人も含めて)を、ナチスに重ねて「反ユダヤ主義」として非難する
(とりわけ、いまやユダヤ原理主義と化した感のあるイスラエル国家はそう主張する)。

 だが、反ユダヤ主義とはキリスト教的伝統に立つヨーロッパが生み出したものであり、歴史的縮痾として抱えていたものである。
そして誤魔化してはいけないが、ナチズムも世俗化したキリスト教的西洋が生み出したものである。
戦前からバレスチナに入植したユダヤ人たち(シオニスト)は、ヨーロッパでのホロコーストを見た後、そこに住んでいたアラブ人を追い出して「ユダヤ人の国」イスラエルを建国した。
それがこの地域でのアラブ人とイスラエルとの抗争の発端だった。

「パレスチナ人」というのはこのとき住む土地を奪われ、保護する国もなく「難民」となった人びとの呼び名である。
爾来、繰り返しアラブ・イスラエルの戦争が繰り返され、東西の「冷戦下」で中東地域の情勢も幾多の変遷を見たが、米欧は一貫してイスラエルを支持し、
国をもたないパレスチナ人の「解放闘争」を(初めは親ソ連のPLOに指導され、やがてムスリム組織に指導されるようになる)、
イスラエルを脅かす不法なものとして、いまでは「テロリスト集団」の暴挙として非難してきた。
そしていつかアラブ側のイスラエルへの敵対を新しい「反ユダヤ主義」と批判するのである(実際、とくにヨーロッパ諸国では混乱がある)。
つまりヨーロッパ(米欧)は、イスラエルをパレスチナに建国させそれを擁護することで、大戦後は資源の面でも冷戦下の地政学的にも重要だった中東に楔を打ち込むとともに、
ヨーロッパの縮痾だった「ユダヤ人問題」を、まんまとアラブ世界に転移させたことになる。

 冷戦終結後、尾羽打ち枯らしたPLO(アラファト)が米欧の仲介で、イスラエル国家(その既得権)を承認するのと引き換えに、
イスラエル領内に将来のパレスチナ国家を樹立するという「オスロ合意」を受け入れた。
しかしその「約束」は果たされるどころか、中東の「イスラーム化」とともに「パレスチナ人」への圧力や隔離・分断は強くなり、
21世紀に入ってアメリカがアラブ・イスラーム世界を念頭に「テロとの戦争」を打ち出すと、
イスラエル(アリエル・シャロン)は「我々はすでにテロとの戦争を遂行していた」と豪語して、「バレスチナ人」そのものを絶滅させかねない勢いになった。

 もちろん、パレスチナ側がいつも無辜の犠牲者だったわけではない。ヨブ・キプール戦争まではアラブ諸国がイスラエルと戦ったし、
一九七〇年前後には度重なるハイジャックを起こし、ミュンヘン五輪時にはイスラエル選手団を襲撃した。
だが、少数のコマンドによるそれらの「テロ」事件の背後には、ヨルダン難民キャンプ襲撃や、名高いサブラ・シャティーラの大虐殺などがあった。
そこで犠牲になったのはコマンドではなく老弱男女の難民たちである。

 いまガザに住んでいる220万の人びとと同じような人々だということだ。そして彼らを保護し生活を支えてきたのがハマスである
(もちろん、ガザには国際支援もあるし、このような状況下でハマスにも問題がないわけではないだろうが、少なくとも外から来たジハード団などとは違う)。
だから、ハマスをガザの住民と区別することはできない。
「ふつう」に生きられる「ふつうの市民」などここにはいないのだ。みなイスラエルの「占領下」で、国家に保護されることのない「難民」として生きている。
その状態はすでに20年以上にわたって続いており、子供たちは「将来の夢」として「カミカゼ」になることしか思い描けない。
それだけが「天国」への「自由」への道だからだ。
しっかりした女の子たちの「夢」は赤新月社の看護師(ナイチンゲール?)になることだ。
しかしすでに2000年代の初めに初の女性「カミカゼ」が登場した。
彼女は赤新月社の看護師だった。
彼らは幼い頃から年長の家族がイスラエルの刑務所に引き立てられ、日々屈辱の生活に耐えるのを見て育つ。
時々、街は爆撃で瓦礫になるし、高い壁で空さえ切り詰められていて、検問所以外に出口はない。
それがガザでは「ふつう」の生活なのだ。(「テロ」「テロリスト」という用語自体が、「生存のための抵抗」を圧殺する創成国家の暴力を正当化するために作られたものだ。)

ピザをどのように分けるかを議論している時に、もうピザを食べている

 パレスチナ国家に割り当てられながら、年々歳々そして日々、ユダヤ人入植者に蚕食され、彼らを守るというイスラエル軍に抑えられているヨルダン川西岸の状況(国連決議も無視している)にはここでは立ち入らないとしても、
数百万の人びとがこのような「牢獄」での生存を幾世代にもわたって強いられているような状況を何とかしないかぎり、今回のような「惨劇」はいつまでも繰り返すだろう。
今回のハマスの「蜂起」は文字どおり明日のない「自爆攻撃」のようなものだが、それを「残酷なテロ」と言ってみても何も始まらない。
ましてや「強力な報復」を唱えるようでは。

ガザでは大量の人びとが日々その地獄を日常として生きさせられているのだから。

解決の方途はひとつしかない。欧米がより公正なかたちで中に入り、イスラエル・パレスチナ双方に相互承認を再確立させ、双方に安住の国を保証することだ。
それができるのはアメリカとヨーロッパしかない。そして反ユダヤ主義の歴史的責任をアラブ人に押しつけずみずからとることだ。
中国やトルコではそれができないし、仲介しようとすること自体が別の意図を勘繰られてアメリカによって潰されるだろう。

 だが、それができなければ、今回の抗争がレバノン、シリア、イランにまで広がり、中東は解消不能の大混乱に陥ることだろう
(イスラエルは核兵器を備えており、核を持とうとしているイランにいつでも先制攻撃できる態勢をとっている)。
それとも、「パレスチナ人」というイスラエル国家によって弾き出された「民族」が、現代世界の無くもがなの「亡霊」として地上から抹消されてゆくのを世界は座視することになるのだろう。

 現代の世界情勢に明るいとか、国際問題に通じているとかいう「専門家」たちは、
そんなことはありえない、中東のテロリストたちは相手にしてはいけないし、米欧がそんなふうに動くはずがない、現に中国やインドやロシアや何よりイランの脅威が…とか何とか、
「現実」を見よと言うだろう。
だが、アメリカの国際問題に関するいわゆる「リアリスト」たちは、国内の「イデアリスト(ネオコン等)」たちの独善に手を焼きながら、
むしろアメリカのイニシアチブを世界の「安定」に向けて発揮すべきだと言うだろう。
目先の「民主主義vs.専制主義(あるいはテロ支援国家)」などいう図式を振り回していると、長い(といってもせいぜい世界戦争後の7、80年だ)時間の経緯を重ねて生じている事態を、
ただ力で押し潰すことになる。
リアリストたちは基本は力関係で世界を見るが、現在の「リアル」の深みをいつも勘案して、その上でアメリカの地位を保とうとしている。

日本としてなすべきこと

ここより下の文章には少し留保はするが、10月18日国連安保理に提案された

「ガザの数百万人に救命援助を届けるための「人道的一時停止」を求める安保理決議」

に日本はアメリカと立場が異なり賛成した。外務省が頑張っているのだろうか?

賛成: 12 (アルバニア、ブラジル、中国、エクアドル、フランス、ガボン、ガーナ、日本、マルタ、モザンビーク、スイス、UAE)
反対: 1 (米国)
棄権: 2 ロシア、イギリス

 ついでに言えば、いつも米国に右向け右の日本が、今回は米欧の「イスラエル支持」の唱和に加わらず、「双方に自制を求める」立場をとっているようだ。
イスラーム国に日本人フリージャーナリスト(後藤健二さん)が捕えられたとき、そんなのは非国民だとばかり見殺しにして、訪問先のエジプトで(?)翌日イスラエルへの大規模な経済協力を発表したモリカケ首相の時代と、
外務省の姿勢が少しは変わったのだろうか?だとしたら、近年イスラエルと親密になった日本は、「テロとの戦争」以前のアラブ諸国との関係をおぼつかない資産として、
双方に働きかける地歩をもっているのかもしれない。外務省にはそう動いてほしいと思う。
 それがすぐに大きな功を奏すとはあまり期待はできないが、それでも、それができれば日本の国際社会における評価と地位は各段によくなることだろう。

 

「イヴァンよお前にやる花はない」プラハの花屋

REMEMBER3.11