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日本の鉄道はこのままでいいのだろうか 5

2017年4月旧シリーズ名「鉄道運賃はこのままでいいのだろうか」をタイトル変更しました。

鉄道の社会的価値という研究がある。鉄道が走ることにより、社会的にその効果が波及するという研究。よく対比されるのは鉄道と自動車の比較による社会的費用の算出である。
 まず自動車には燃料の面から「温暖化」「原油依存」、走行面から「大気汚染」「混雑」「事故」「道路損傷」等の外部費用(注1)が上げられる。その自動車交通と鉄道の場合を比較する研究である。
(注1:発生者が負担せずに第三者が負担する費用を外部費用という)

信州上田交通別所線という地方交通の存続における費用対効果の試算結果がある。下記url参照
http://www.jterc.or.jp/topics/josei_shinpo3.14/3_chiho_tetudo.pdf 

(ちなみにこの線は「第18作 男はつらいよ 寅次郎純情詩集」に登場する丸窓が特徴の車両がある。ここでは関係ないか)

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それによれば地方鉄道存続による効果としては、「供給者への利益」「地域社会への効果」「鉄道利用者への効果」が考えられるとしている。

  • A「供給者への利益」

つまり鉄道運営者の利益 

  • B「鉄道利用者への効果」

自動車利用と比較した場合の時間短縮効果
交通費用の削減効果

表面的にはこの辺りまでが存続の価値として考えられてきた。しかし鉄道には以下の面もあるというのが論点

  • C「地域社会への効果」

自動車交通の削減による時間短縮
走行経費減少効果
交通事故削減効果
環境改善効果
付随して鉄道が走っているという景観をみる満足感・いつでも利用できるのだという安心感・送迎の心理的な負担の回避・鉄道を後世に引き継ぐという満足感・地域のイメージアップ効果・市街地や地域拠点とつながるという満足感

上記の項目ごとに以下の対比で費用便益を分析した。

  • A「供給者への利益」 マイナス6.2億円
        鉄道事業者の収益 
  • B「鉄道利用者への効果」 44.5億円
        自動車利用との時間比較自動車交通利用との費用の削減
  • C「地域社会への効果」 78.7億円
       その内訳
          訳道路交通混雑緩和 57.9億円
          交通事故削減   10.9億円(環境改善便益含む)
          存在効果     9.9億円(注2)
結論

便益計 117.0億円

一方費用は鉄道の維持改良費として8億円と分析

差引 109億円の存在価値 

があると結論づけた。

その結果、上田交通全額出資の子会社「上田電鉄」として存続

2005年3月(財)運輸政策研究機構『活力ある暮らしを支える鉄道を目指して~第3回 鉄道整備等基礎調査報告シンポジウム~』資料より
(注2)存在効果の測定にはCVMという測定法以下参照がとられた

http://kkuri.eco.coocan.jp/whatis/cvm1.html


数値的には多くの研究者による疫学的環境的調査から数値がはじき出されている。日本における先駆的な研究は、「日本における自動車の外部費用の概算」運輸政策研究 / 運輸政策研究機構 [編] 兒山 真也 岸本 充生という論文(以下がそのPDF)で、

http://www.jterc.or.jp/kenkyusyo/product/tpsr/bn/pdf/no13-03.pdf

自動車交通の外部費用(円/km)大気汚染の外部費用        0.8円から1.8円 中位推計1.3円
気候変動の外部費用      0.04円から12.5円 中位推計1.6円 
騒音の外部費用          1.0円から3.7円 中位推計2.5円
事故による外部費用                       5.0円
インフラ整備の過小負担                     5.0円
                         中位推計での計14.0円

2001年7月(財)運輸政策研究機構『運輸政策研究』Vol.4 No.2より
自動車1台あたり中位推計で14.0円(円/km)とはじき出された。これを使って別所線の例のように鉄道がある場合とない場合すなわち自動車による移動との場合が比較されている。他にもえちぜん鉄道等の例がある。

公共交通の意味を住民が再認識 地域で走らせた「えちぜん鉄道」/北陸地域における公共交通の課題と展望 | 北陸の視座vol.21

 つまり鉄道が走ることにより、自動車の走行量が減る、自然に対する温暖化の観点や環境保護の観点からより自然にやさしい社会となる、自動車走行が減少し交通事故件数が減る等の便益が出ることになり、一概に鉄道路線営業収支が赤字だからという面から鉄道を存続させるか否かの判断は正しくないということだ。

 わかりやすく本州から知床半島へ行くとする、最寄駅から鉄道に乗り、さらに新幹線に乗り換え、(現時点では)函館に着く。そして函館から苫小牧へ苫小牧からは主に2ルート以下の図Aになる。旭川経由と釧路経由 図A吹き出しの中に書き込んだのは路線の営業係数つまり100円の収入を得るのにいくらの経費を使っているかという数字 双方どちらの路線にも100以下の数字がない。つまりこれら路線は100円の収入を稼ぐのに100円以上かかる赤字路線である。(残念ながら北海道には営業係数100以上の路線しかない)そしてこのうちいくつかはこの数字だけから判断すれば廃止されるかもしれないという線路である。知床には飛行機でしか行けなくなる。

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図A

そう結論づけていいのであろうか。

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(htmlだんだん手が込んできたなあ)