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山本義隆氏に学ぶリニア新幹線について その5


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山本義隆(科学史家、元東大全共闘議長)

再度リニア新幹線について、という山本義隆(科学史家、元東大全共闘議長)の文章を読み、リニア新幹線について学びます。

山本氏には多くの著作がありますが、その中でも有名なものは「磁力と重力の発見」です。

氏は本来物理の専門家で、東京大学在学中は一時京都大学基礎物理学研究所に国内留学し後にノーベル賞を受賞する湯川秀樹の薫陶をも受けた。

その将来を嘱望されていたが、おりしも展開した東大全共闘運動にかかわることとなり、東大全学共闘会議の議長を務めた。

そのことに湯川秀樹は惜しい逸材を獲られたと大変嘆いたと伝えられている。

全共闘としての活動で1969年に逮捕された後、氏は大学を去り、予備校講師として物理の講義を続けた。その成果が上記2003年刊行の「磁力と重力の発見」に繋がる。

以下山本氏の文章に準じ、物理学の先覚からリニア超伝導についてその基礎から学んでゆく。

その5回目(文中敬称略)

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リニア新幹線と財政投融資

雑誌『財界にいがた』2018年8月号には「国とJR東海がリニア中央新幹線開業に向け熱望する 柏崎刈羽原発再稼働」の見出しで書かれています:

雑誌『財界にいがた』2018年8月号 世界最大の原子力発電所である柏崎刈羽原発を抱える本県――。
一般に柏崎刈羽原発は「関東圏の電力需要を賄うための原発」と捉えられているようだが、その存在意義は県民が思っているよりも格段に大きく、国が同原発の再稼働を強く望んでいることには確たる理由がある。
その理由とは、2027年に開業予定のリニア中央新幹線の電力供給源としての同原発の再稼働が不可欠だからだ(強調山本)。

 

 リニア中央新幹線の建設は原発の再稼働や新設と不可分であり、したがって反リニア新幹線は反原発と直結しているのです。

 ところで、今、JR東海会長・葛西敬之に言及しました。

前回私は、安倍首相が2016年にJR東海のリニア中央新幹線計画への3兆円の財政投融資の投入を決定したことに触れ「安倍首相にまつわるネポティズム(お友達優遇)の影がちらついています」と書きました。

このことについて、なぜか大新聞はあまり書かないのですが、『日経ビジネス』2018年8月20日号の特集「リニア新幹線 夢か、悪夢か」に詳しいので、同誌に依拠して、もうすこし書いておきましょう。

異例の財政投融資

 もともとリニア中央新幹線計画は、建設費用は全額JR東海自己負担としてJR東海単独の計画で始まったのですが、2016年6月に安倍首相が大阪開通を8年間前倒しすることとともに総額9兆円の建設費のうち3兆円を国からの財政投融資で賄うことを表明し、このことで民間企業であるJR東海の計画が、公の議論がほとんどないままに「国家的なビッグプロジェクト」(『毎日新聞』2017年3月3日)に変質したのです。

 その融資の内容は「無担保で3兆円を貸し、30年間、元本返済を猶予する。しかも、超長期なのに金利は平均0.8%という低金利を適用する」(『日経ビジネス』)というとんでもないものです。この金利について、『東京新聞』には「国土交通省の試算によると、民間からの借り入れとくらべて五千億円ほど金利負担が減る」とあり、さらに書かれています:

 財政投融資の資金は政府が国債の一種「財投債」を発行し、銀行や保険会社などから借りる。JR東海への金利は将来にわたり低いまま固定されているが、財投債は日銀の政策変更や景気の改善で金利が上昇する可能性がある。

 政府が払う利息が貸し出した金利分より多くなれば、その穴埋めに税金が使われる恐れがある。(『東京新聞』2017年12月19日)

 貸付金額の大きさも、貸付条件の甘さも、いずれも破格のものです。『日経ビジネス』の記事には、日本政策投資銀行の話として書かれています。

 「民間銀行はもちろん、うちでも1社に3兆円を貸し出すことはあり得ません。相手先が倒れたら、銀行も一緒に死んでしまう。うちも他の大手銀行も、1社2000億がギリギリのラインです。30年間返済据え置き? それはないでしょう。」

とあり、そして同じ財政投融資という融資スキームを扱っている日本政策金融公庫の幹部も語っています。

「いや、あの融資条件は、他に聞いたことがないですね」。「そもそも、30年後から返すって、貸す方も借りる方も責任者は辞めているでしょう。生きているかどうかも分からないですよね。」

 金融の常識からしてありえない異常な話なのです。

 次の問題もあります。通常で言えば、金融機関がなにがしかの事業に融資するとなれば当然厳しい審査があるはずですが、このリニアのプロジェクトの場合、一体どのような審査がなされたのでしょうか。

 私の見たかぎりで、リニアについて書かれた文献の大部分は、事業の成功の可能性について、いずれもきわめて厳しい否定的な見方をしています。

JR東海のHPに

「財政投融資を活用した長期借入について」

という資料が上がっている。その中に以下のような記述がある。

3兆円借入完了 当社は平成28(2016)年11月に独立行政法人鉄道建設・運輸 施設整備支援機構(以下、「鉄道・運輸機構」という。)に対し、総額 3兆円(予定)の財政投融資を活用した長期借入(以下、「財投借入」 という。)の申請を行いました。その後、順次借入れを進め、平成29 (2017)年7月には予定していた総額3兆円の借入れが完了しまし た

財投借入のスキーム 財投借入のスキームでは、まず国の財投特別会計から財投機 関である鉄道・運輸機構に長期・固定・低利の貸付けが行われます。
 そして、当社はその貸付金利と同じ条件で鉄道・運輸機構から借り入れます。
図1

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注  JR東海から債権管理・モニタリング等についての経費を支払うがほぼ財政投融資の条件通りでの借入が可能となった。

 財投借入は総額3兆円を予定し、平成28(2016)年度に1.5兆 円を借入れ、平成29(2017)年度に残りの1.5兆円の借入れを実行しました。
なお、資金の使途は、中央新幹線の建設に係る費用に限定されています(使途事業以外での使用や運用は行いま せん)。
 平成22(2010)年に国土交通省の交通政策審議会に提出した資料では、名古屋開業後に8年間、経営体力を回復するための期間を設け、長期債務を一定程度縮減した後、名古屋・大阪問の工事に着手し、長期債務残高が5兆円を超えることなく、健全経営と 安定配当を堅持しながら、全線開業を迎える見通しとしていまし た。
 この財投借入の活用により、この経営体力の回復期間を短縮し最大8年前倒しを目指して建設を推進することができるようになります。
図2

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 財投借入の条件については、利率は借入実行日の財政融資資金貸付金利を適用し、全期間固定です。
返済方法は約30年間の元本据置き後に約10年の元金均等返済としており、大阪開業後の経営が安定した時期に約10年かけて返済します。
 使途につい ては、中央新幹線の建設費用に限定されていますので、区分管理を目的として信託を設定することにより、資金の透明性を確保し ています。
 なお、この財投借入は2年間で総額3兆円と巨額であるため、5回に分けて借入れを実行しました。
図3

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リニアの採算性

 『交通学研究 2009年研究報告』に「中央リニア新幹線導入が経済と環境に及ぼす影響」という論文が掲載されています。
著者は東京大学の二人の研究者・山口勝弘と山崎清で、「要旨」冒頭に「次世代の都市間高速交通網の一翼を担うことが期待される超電導磁気浮上式鉄道の東京、名古屋、大阪間への導入(中央リニア新幹線)」とあるように、基本的にはリニア新幹線について期待するという立場で書かれたもので、すくなくともリニアにたいして批判的なスタンスはありません。

そして純粋な数学的な、その意味では中立的なモデルによる定量的な分析に終始しています。

しかし、その結論は「要旨」には「中央リニア新幹線は、単体では採算が見込めるが、〔従来の〕東海道新幹線には巨額の減収をもたらす。

従って、JR東海がリニアを導入した場合、東海道新幹線からの需要シフトにより増収効果が小さいため中央リニア新幹線の事業収支は大幅な赤字となる」とあり、本文で「東海道新幹線を保有するJR東海にとって中央リニア新幹線導入は事業収支の悪化をもたらす可能性が高い」と結論づけられています。

 難しい数学を使わなくとも、私がすでに2019年に単一の電鉄会社が競合する2本の路線を有する場合の危険性として語ったのとおなじ結論です。

この雑誌『日経ビジネス』は、標題どおりビジネスマンはあるいは株価の動向に関心のある人たちが読む雑誌で、もちろん「リベラル」でもなければ「革新的」でもありません。

しかしこの雑誌の記事も、JR東海のリニア中央新幹線にたいしてはきわめて厳しい評価をしています。

 『日経ビジネス』の記事はPt.1, Pt.2, Pt.3に分かれています。そのPt.1の表題は「速ければよいのか 陸のコンコルド」です。

フランス政府が国力をあげて追求したが、騒音と排気ガスの公害を撒き散らし、赤字続きでついには悲惨な事故をおこして破綻した超音速ジェット機コンコルドになぞらえているところに、リニアに対する評価が透けて見えます。

そしてそこには、なんとJR東海の社長自身がリニア計画は「絶対にペイしない」と正直に語ったことまで書かれています。

そしてPt.3の標題は「平成の終焉 国鉄は2度死ぬ」で、この標題もこのプロジェクトにたいするきわめて否定的な見方を暗示しています。

 公共政策に詳しい橋山禮治郎の『リニア新幹線 巨大プロジェクトの「真実」』集英社新書には、

『リニア新幹線 巨大プロジェクトの「真実」』集英社新書P80一般にプロジェクトの成功の条件として、「経済性が確保されているか、技術的な信頼性があるか、環境を破壊することはないか」を挙げ「この3点をすべて満たしていればプロジェクトとしては成功すると言えるが、そのひとつでも不十分または不適切であれば、ほぼ確実に失敗におわる」

とあります。

そしてとくにリニア中央新幹線について

『必要か、リニア新幹線』岩波書店P82 内外の多くのインフラ・プロジェクトの評価に携わってきた一研究者として言えることは、本件リニア計画ほど不確定要因が多く、多くの困難とリスク(経済的、技術的、環境的)を抱えたプロジェクトは、世界中を探してもまず存在しないということである。

との、最大限の危惧を表明しています。

 とくに経済性について言うならば、人口減少下での需要の増加が見込まれないことを踏まえ、審議会とJR東海自体の需要予測にたいして「これまでの分析から言えることは、審議会はもちろん、JR東海自身も需要見通しが甘すぎるという一語に尽きる。

 現下の厳しい経済社会を展望すると、客観的に見て需要増加の可能性はきわめて低く、それにもかかわらず輸送能力を2~5割も増強するというフレームに固執して着工すれば、プロジェクトの失敗は避け難いと判断せざるをえない」と断じています(『リニア新幹線 巨大プロジェクトの「真実」』p.100)。

リニア中央新幹線プロジェクトは、その金額の大きさは勿論ですが、計画内容自体、通常の金融の常識では、ということはつまり資本主義的合理性という観点から見て、とても融資の対象にはなり得ない不健全なものなのです。

 『毎日新聞』の2016年7月25日の社説には「リニア新幹線 公費の投入は話が違う」と題して、「そもそもリニア計画は、JR東海の<全額自己負担>を前提に国が認可したものだ。民間企業だからこそ、JR東海は政治の介入を極力回避し、開業時期やルートなどを自分で決めることができた。…… 公的資金による国家プロジェクトの位置づけであったら、JR東海単独の事業として認められただろうか。
建設が始まった今になって、やはり国が資金支援、というのは明らかに約束違反だ」とあります。
しかし現実には単なる「約束違反」を越えた「不正」ではないでしょうか。

安倍晋三とリニア中央新幹線計画

 そしてそのような理不尽がまかり通っている背景には、安倍政権の存在が考えられます。この『日経ビジネス』の記事のこの問題を扱ったPt.2の見出しは

安倍 「お友だち融資」 3兆円  第3の森加計問題

森友学園、加計学園の比ではない3兆円融資。

その破格の融資スキームが発表される前、

安倍と葛西は頻繁に会合を重ねていた。(強調ママ)

とあります。
実際この記事によると、1994年以来2018年までの葛西の首相との面会は、安倍以外の10人の首相とでは計16回、年平均1.3回、それにたいして、安倍首相とは、第1次安倍内閣で7回、2018年までの第2次安倍内閣で45回、年平均で7.5回ととびぬけています。
葛西と安倍の関係は、行政府の長と地域独占企業のトップとの関係をはるかに越える緊密なものになっています。

そして安倍がJR東海のリニア計画への財政支援を表明した2016年6月1日までの半年間、つまり前年末から5月27日まで葛西と安倍は実に6回会談し、とくに直前の5月27日には葛西は名古屋駅で安倍を迎え、安倍はJR東海本社ビルのある名古屋JRセントラルタワーズにあるホテルに宿泊しています。

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 この件にかんして、私は前回「リニア計画を引っ張ってきたJR東海の葛西敬之名誉会長は、安倍晋三首相と非常に距離が近い人物だ。
二人の関係があったので優遇されたと見られても仕方がない」という橋山禮冶郎の談話を引きましたが、「…… と見られても仕方がない」というよりは「…… と見ざるをえない」と言うべきではないでしょうか。
『日経ビジネス』には「これほど破格の3兆円融資は、官や民の判断能力をはるかに超えている。

しかも返済されなければ、公的処理をせざるを得ない。
大きな政治判断なくして実行できない」とありますが、きちんとした議論も審査もなく、まさに安倍晋三の「政治判断」でなされたとしか考えようがありません。

(次回に続く)

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2020年発表JR各社の決算より
  • JR北海道
    2020年3月発表決算
    運輸収入「875億円」:赤字「▲521億円
  • JR四国
    2020年3月発表決算
    運輸収入「260億円」:赤字「▲136億円
  • JR東海
    2019年3月発表決算リニア新幹線関連投資予算額3100億円)
    2020年3月発表決算
    運輸収入「1兆4222億円」:鉄道部門利益額「6167億3300万円」
    (2020年3月発表決算リニア新幹線関連投資額未掲載)
  • JR東日本
    2020年3月発表決算
    運輸収入「1兆9692億円」:鉄道部門利益額「2540億9500万円」
  • JR西日本
    2020年3月発表決算
    運輸収入「9318億円」:鉄道部門利益額「1054億1200万円」
  • JR西日本
    2020年3月発表決算
    運輸収入「9318億円」:鉄道部門利益額「1054億1200万円」
  • JR九州
    2020年3月発表決算
    運輸収入「1652億円」:鉄道部門利益額「200億8900万円」

REMEMBER3.11