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山本義隆氏に学ぶリニア新幹線について 最終回


線路は続く 目次
 

山本義隆(科学史家、元東大全共闘議長)

再度リニア新幹線について、という山本義隆(科学史家、元東大全共闘議長)の文章を読み、リニア新幹線について学びます。

山本氏には多くの著作がありますが、その中でも有名なものは「磁力と重力の発見」です。

氏は本来物理の専門家で、東京大学在学中は一時京都大学基礎物理学研究所に国内留学し後にノーベル賞を受賞する湯川秀樹の薫陶をも受けた。

その将来を嘱望されていたが、おりしも展開した東大全共闘運動にかかわることとなり、東大全学共闘会議の議長を務めた。

そのことに湯川秀樹は惜しい逸材を獲られたと大変嘆いたと伝えられている。

全共闘としての活動で1969年に逮捕された後、氏は大学を去り、予備校講師として物理の講義を続けた。その成果が上記2003年刊行の「磁力と重力の発見」に繋がる。

以下山本氏の文章に準じ、物理学の先覚からリニア超伝導についてその基礎から学んでゆく。

その最終回(文中敬称略)

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ポスト・フクシマ、ポスト・コロナ

2020年7月15日の『毎日新聞』夕刊には、法政大学学長・田中優子とコラムニスト・中森明夫のエッセーが掲載されていたのですが、いずれもコロナとの関連で東京一極集中の危険性を指摘するものです。
田中は「都内の新型コロナウイルスの感染がなかなか終息しない一因は人口の首都圏集中であろう」と語り、そして普段はもっと柔らかいテーマを取り上げる中森のエッセーも、めずらしく社会的な問題を正面から捉え、熱く語っています。
今回だけはストレートに言わなければという中森の思いが伝わってきます。

中森明夫「ニッポンへの発言」 新型コロナウイルスによる感染者数は東京都が突出して多い。…… 東京は異常なのだ。1400万人もが住み、15兆円の予算はスウェーデンにも匹敵する。日本の首都であり、国会議事堂があり、皇居があって、大手企業の本社や、テレビ局や新聞社のマスメディアが密集している。一極に集中した国家中枢の異様な肥大化ぶりはあまりにも危うい。

 誰が見てもコロナの教訓は、一極集中の危険性を明らかにしたことにあります。
そして、その一極集中を生み出した大きな原因のひとつが、前回見たように、新幹線だったのです。
のみならずリニア中央新幹線は、その一極集中をさらに推し進めることになるであろうと予想されているのです。
このことは、前回の私のリニア批判でもっとも言いたかったことのひとつなのですが、しかし一般にはあまり知られていないことのようです。
 実際たとえば、1987年にJR東海の社長に就任した須田寛の1988年の書『東海道新幹線』には、東京‐大阪を1時間強で結ぶリニア新幹線は「首都機能の分散や、国土の均衡ある発展に大いに寄与するものと考えられる」(p.268)とあります。
しかし現実には真逆の効果をもたらすと考えられています。実際にも従来の東海道新幹線は、「分散」どころか「集中」をもたらしたのです。
 そしてまた大阪維新の会は、一方では東京都に対抗する形で「大阪都」を主張しているのですが、同時にリニア中央新幹線の早期大阪開通を掲げています。
しかし「大阪都」構想が東京一極集中にたいするアンチテーゼであると言うのであれば、それはリニア中央新幹線プロジェクトと矛盾しています。
大阪維新の会もまた、リニア新幹線が東京一極集中を加速させるものであるという事実を理解していないのです。
 かつて江戸を唯一の焦点とする参勤交代のための東海道・中山道・甲州街道等の基幹道路(五街道)が徳川幕藩体制を支えていました。
維新後、それにかわる国鉄建設が明治統一国家の骨格を形成しました。
それにたいして戦後昭和の東海道新幹線はあらためて東京への一極集中を加速させたのです。
そして現在計画されているリニア中央新幹線の「東京・名古屋・大阪6000万人メガロポリス」のスローガンは、日本における一極集中の極限的表現なのです。
 この点について、7月21日の『毎日新聞』の広井良典のインタビューはたいへん興味深いものです。
 公共政策と科学哲学の専門家である広井が財政学や社会心理学、医療経済学の専門家とともにAI(人工知能)を駆使して「2050年、日本は持続可能か」とのテーマで日本の将来をシミュレーションした結果が語られています。
すなわち「日本の未来が都市集中型と地方分散型に二分され、後戻りのできない分岐点が25~27年ごろにやってくることが判明した」、そして現状のままの都市集中型を貫いた場合、財政は持ち直しても出生率の低下と格差の拡大はさらに進行し、個人の健康寿命や幸福感は低下する、他方、地方分散型に転じた場合は、34~37年頃までに、地域のエネルギー自給率や雇用、地方税収に力を注げば、人口、財政、環境資源、雇用、格差、健康、幸福等の観点がバランスよく持続可能になると判断されたとあり、広井はさらに語っています。

7月21日の『毎日新聞』の広井良典のインタビュー 当初は社会保障のあり方などが主要な論点になるだろうと考えていましたが、ふたを開けてみると「集中か分散か」という論点が日本の持続可能性を決める本質であることがわかりました。…… 新型コロナは主に東京などの大都市で広がり、都市集中型社会のさまざまな課題を一気に噴出させましたが、それらの解決が求められるコロナ後の社会とAIが示した持続可能な未来があまりにも一致していることに驚きました。

 この点について、かつて「原発震災」という概念を提起して福島の事故を予測した地震学者・石橋克彦は、今年7月2日の『静岡新聞』で、まったく同様に「新型コロナウイルスの大流行により、世界中で社会経済様式が大きく変わろうとしている。
経済成長を至上として効率・集積・大規模化が追求されてきたが、それが感染症拡大を激化させたから、ゆとり・分散・小規模が重視されつつある。…… 今後は、東京一極集中や大都市圏の過密と地方の過疎を解消し、エネルギーや食料を域内で自給できる分散型社会を目指すべきだろう」
と語っています。ここでも「集中と分散」がキーワードです。
 広井のインタビューに戻りますと、欧米の技術先進国アメリカとイギリスとドイツでのコロナ被害を比較した場合、ドイツでは被害が比較的少なかったことが見て取れるのですが、これは、米英社会がニューヨークやロンドンの一極集中であるのとちがって、
「ベルリンなどの大都市もありますが、国全体に中小都市が幅広く分散しているのがドイツの特徴です。……ドイツの被害が相対的に抑えられているのは、医療システムが整備されていることなどに加え、国全体が3密の起きにくい多重構造になっていることも見逃せないと思います」
と続けられています。なんだかはまりすぎの感じもしますが、興味深い指摘です。
 広井良典の『ポスト資本主義 科学・人間・社会の未来』(岩波新書, 2015)も興味深い書物で、『毎日新聞』のこのインタビューと併せて読まれるべきものでしょう。広井はこの書で、『ゾウの時間 ネズミの時間』の書で知られる生物学者・本川達雄の所説を次のように紹介しています:
「ビジネスbusiness」とは文字通り“busy+ness(=忙しいこと)”が原義であるが、その本質は「エネルギーを大量に使って文字通り時間を短縮すること(=スピードを上げること)」と言い換えることができる。たとえば東京から博多への出張に列車ではなく飛行機で行くと、それはエネルギーをより多く使う分、それだけ速い時間で目的地に到達することができるわけで、つまりそれは「エネルギー → 時間」という変換がなされたことになる。 その調子で人間はスピードを無際限に速めてきており、現代人の時間の流れは縄文人の40倍ものスピードになっている(同時に縄文人の40倍のエネルギーを消費している)。しかしそうした時間の速さに現代人は身体的にもついていけなくなりつつあり、「時間環境問題」の解決こそが人間にとっての課題である、というのが本川の主張である。(p.142)  私自身がリニア問題にこだわってきた理由を旨く説明してもらったような気がします。

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資源エネルギー庁資料
 リーマン・ショックによって世界の金融に危機がもたらされた後のフクシマの原発事故は、重化学工業を中心とする大量生産・大量消費・大量廃棄に支えられた高度成長経済、そしてその条件が失われたのちの新自由主義経済における資本のグル―バルな展開と格差の拡大といった、これまで昭和戦後期から平成にいたる過程の根底的な見直しを促していたのです。そしてコロナは、大都市に資本と人口が集中し、社会的格差の拡大のなかで追い詰められた人々がゆとりをなくして働かされていることのもつ危険性をあぶり出しました。
そのことは、根本的には生活と労働の見直しを促しているのです。
 上に見た広井の書の書名に「ポスト資本主義」という言葉が見られます。
経済学者・水野和夫の書『資本主義の終焉と歴史の危機』(集英社新書、2014)には「もう資本主義というシステムは老朽化して、賞味期間が切れかかっています」とあります(p.131)。
リーマン・ショックとフクシマの事故とコロナ禍がだめ押ししたことになります。
それゆえ「ポスト・フクシマ」や「ポスト・コロナ」を語ることは、つきつめれば「ポスト資本主義」を語ることになるのでしょう。
 私自身について言えは、とてもそこまでのグランド・デザインを描くだけの能力も知識もありませんが、すくなくとも、これまでの社会システムやプロジェクトのひとつひとつにたいして、ポスト・フクシマ、ポスト・コロナの観点から見て、見直されるべきもの、否定されるべきものの指摘くらいならできるかと思っています。
その典型的な例がリニア新幹線なのです。
 石橋克彦は先述の『静岡新聞』のエッセーで「時代錯誤のリニア再考を」と訴えています。
ポスト・フクシマの観点からは、過大なエネルギーを消費し原発の再稼働と新設を必要とするリニア新幹線プロジェクトは真っ先に見直されるべきものでありますが、ポスト・コロナの観点からもまた、リニアが一極集中をさらに助長しかねないものとして、真っ先に見直されるべきものであります。
したがってリニア新幹線プロジェクトはその2重の意味で端的に「時代錯誤」として放棄されるべきものと言えるでしょう。
2020年9月 (やまもと・よしたか)


付け足しにはなるが・・

リニア新幹線はほぼトンネルの中を走る。品川・名古屋間の86%がトンネルとなる予定。

トンネルとなることにより大量の土砂が掘り出される。その土砂の行き場にも苦慮しているらしい。

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いっそのこと難所となる南アルプスを避け新幹線方式(高架)で迂回すればどうなのだろうか。

上図で予定されているリニアのルートを南アルプス迂回として現在の中央線付近(上図では黄色のルート)を考えると、全長142kmほどになる。

下図の三角形と仮定すると、迂回ルートの距離は50から60km程度になる。

時速500km以上で走行するなら10分以下だ

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JR東海はこの距離が我慢できなかったのだろう。

従来のルートに比してカーブを描くという影響もあるのかもしれない。

それとも地上で必要となる土地買収の手間を考え買収の必要がないトンネルを選んだのか。参照 中央新幹線(リニア)静岡県域に駅はない

 

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線路は続く 目次

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2020年発表JR各社の決算より
  • JR北海道
    2020年3月発表決算
    運輸収入「875億円」:赤字「▲521億円
  • JR四国
    2020年3月発表決算
    運輸収入「260億円」:赤字「▲136億円
  • JR東海
    2019年3月発表決算リニア新幹線関連投資予算額3100億円)
    2020年3月発表決算
    運輸収入「1兆4222億円」:鉄道部門利益額「6167億3300万円」
    (2020年3月発表決算リニア新幹線関連投資額未掲載)
  • JR東日本
    2020年3月発表決算
    運輸収入「1兆9692億円」:鉄道部門利益額「2540億9500万円」
  • JR西日本
    2020年3月発表決算
    運輸収入「9318億円」:鉄道部門利益額「1054億1200万円」
  • JR西日本
    2020年3月発表決算
    運輸収入「9318億円」:鉄道部門利益額「1054億1200万円」
  • JR九州
    2020年3月発表決算
    運輸収入「1652億円」:鉄道部門利益額「200億8900万円」

REMEMBER3.11