紙つぶて 細く永く

右の「読者になる」ボタンをクリックし読者なっていただくと記事更新時にお知らせが届きます。

}

老いの美学

通勤時間の車両の椅子席はほぼ一杯。
かろうじて残っていた4人がけの席の内、一人分を初老の女性が見つけた。
座る様子はないが席を確保するようにその脇に立ち、
遠慮がちに誰かを手招きしている。
ゆっくりと足元を確保しながら老人男性がきた。
老人夫婦であった。
夫婦で揃って頭を下げながら、夫がその席に座った。
バッグをもった妻は通路に立っている。
次の駅でも通勤客が乗り込み車両は混み始めた。
 

f:id:greengreengrass:20180904223832j:plain

  
また次の停車駅で夫の前の席が空いた。
夫は通路に立っている妻に判るように高く高く手を上げて席が空いたことを告げた。
脇に腰掛けている通勤客は少し腰を浮かせながら、妻がその席に座るように促した。
再度、頭を下げながら妻はまたまた遠慮がちに夫の前に腰掛けた。
互いに顔を見合わせながら、微笑んだように思えた。
周囲に安堵の空気が漂い、
乗り合わせている通勤客にもさわやかな初夏の一日が始まった。