山本義隆(科学史家、元東大全共闘議長)
再度リニア新幹線について、という山本義隆(科学史家、元東大全共闘議長)の文章を読み、リニア新幹線について学びます。
山本氏には多くの著作がありますが、その中でも有名なものは「磁力と重力の発見」です。
氏は本来物理の専門家で、東京大学在学中は一時京都大学基礎物理学研究所に国内留学し後にノーベル賞を受賞する湯川秀樹の薫陶をも受けた。
その将来を嘱望されていたが、おりしも展開した東大全共闘運動にかかわることとなり、東大全学共闘会議の議長を務めた。
そのことに湯川秀樹は惜しい逸材を獲られたと大変嘆いたと伝えられている。
全共闘としての活動で1969年に逮捕された後、氏は大学を去り、予備校講師として物理の講義を続けた。その成果が上記2003年刊行の「磁力と重力の発見」に繋がる。
以下山本氏の文章に準じ、物理学の先覚からリニア超伝導についてその基礎から学んでゆく。
その4回目(文中敬称略)
リニア新幹線と原子力発電
(前回 に続き「脱線」の話から)
たとえば核分裂性ウランは、同質量の石油に比べて圧倒的に多くのエネルギー生み出すというようなことが、原子力発電の有利さの論拠にしばしば語られています。
しかし、実際には核分裂性ウランつまりウラン235は天然ウランにわずか0.7%しか含まれず、ウランそのものとしてはずっと多くを必要とします。
そして核分裂を起こさせるためには、天然ウランをウラン235の含有率が数%になるまで濃縮しなければなりません。
そのために必要なウラン鉱石の量は、相当になりますが、なによりも重要なことは、濃縮ウランを作る過程で大量の電力を要するということです。
第二次世界大戦中に原子爆弾を作ったアメリカのマンハッタン計画でもっとも困難であったのが、原爆そのものの製作ではなく、天然ウランから核分裂性のウランを濃縮するこの過程だったのです。
そういったことすべてを考えれば、燃料としてウランが石油にくらべて有利とは決して言えません。
日本は濃縮ウランを高い金を出してアメリカから購入しているのであり、濃縮のために必要な電力はその濃縮ウランの代金に繰り込まれているのです。
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リニアに話を戻します。
リニアが多大な電力を要するということは、リニア中央新幹線を実際に運転するためには、
そのための原発を新設しなければならないことを意味しています。
先ほど見た
にも「〔リニアモーターカーを〕現在の新幹線と同程度の頻度で走らせるとすると、莫大な電力を必要とし、原子力発電所を再稼働どころか増設せねば、この電力は賄えないかもしれません」
とあります(p.76)。
JR東海は、2007年に計画を発表した時、当然そのことを前提としていたでしょう。
JR東海内部でリニア新幹線計画を中心的に進めてきた人物は、国鉄民営化の過程で国鉄の中心にいたJR東海の初代社長・葛西敬之(Blog注)です。
前回でも少し触れましたが、2011年3月の東日本大震災で東京電力の福島第一原発が崩壊したわずか2か月半後の5月24日の『産経新聞』に、JR東海の会長となっていた葛西はつよい調子で語っています。
前回、すこし触れただけだったので、もうすこし引用しておきましょう。
要するに事故がありうることは認めても、それでも覚悟をきめて原発に固執せよ、今一度原発推進に邁進せよ、と、動揺している原発推進派を叱咤しているのです。
「覚悟」という言葉が2回も出てきて「国家の存亡」とまであるこの檄文は、福島原発の事故からわずか二カ月半のこの時点では、もっとも過激な原発再稼働論でしょう。
何があったのかというと、この丁度二週間前の5月10日の『朝日新聞』の一面トップに「浜岡全炉数日中に停止 中部電 首相要請を受諾」とあります。民主党の菅直人首相の要請を受け容れて中部電力が浜岡原発の運転を停止したのであり、葛西はこのことに大きな危機感を抱いたのでしょう。
リニア中央新幹線の営業運転にとっては、東京電力の柏崎刈羽原発と中部電力の浜岡原発の増設と稼働が絶対的に必要なことを、葛西は知っていたのです。
(Blog注)
安倍首相と近い人物は誰なのでしょうか。次に示すのが「財界」における親密度のランキングです。トップは、葛西敬之・JR東海名誉会長で、会合日数は41日にも及びます。葛西名誉会長は、4位の古森重隆・富士フイルムホールディングス会長らとともに、たびたび東京・南麻布の料亭に通って安倍首相との親交を深めています。
(2017年9月4日ダイヤモンドDATAより)
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本来なら福島の事故で真っ先に見直さなければならないプロジェクトであるリニア中央新幹線計画の、堅持と継続を宣言したと言えるでしょう。柏崎刈羽原発の増設がリニア新幹線のためのものであるということは、それまで宮崎で行なわれていたリニアの実験線の移転先が山梨に決まり、1997年に走行試験が始まった時点で東京電力が明言しています。
すでに高度成長が終りを迎え、電力需要が頭打ちになっていた1990年代でも、なおかつ原発拡大方針をとっていた日本政府と通産省(後の経産省)は、各電力会社に原発新設を促していたのです。
三菱、日立、東芝といった原発メーカーや原発建設にあたる大手ゼネコンの保護政策です。
そんなわけで、どの電力会社にとっても、需要があるから原発を新設するのではなく、原発を作るために新しい電力需要の掘り起しを考えなければならない状態になっていたのです。
そして願ってもない新しい大口需要先として電力会社はリニアを見出したのです。
『毎日新聞』(山梨版)1998年9月13日の記事には「東京電力 大槻に新変電所設置 新潟・柏崎原発と直結」との見出しで、次のように書かれています
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ちなみに柏崎刈羽では、1980年から90年までに作られた5基の原発はすべて110万Kw, そして1996年と97年に各135.6万Kwの原発2基が作られています。総発電量821万Kw、世界最大であり、恐るべき密集原発です。そしてこの第7号基がリニアのために作られたのでしょう。のちにJR東海がリニア中央新幹線計画に乗り出した段階では,今度は逆にJR側が、新設されるはずの東電・柏崎刈羽原発と中電・浜岡原発をリニアに欠かせない電源として位置付けることになります。
2011年東日本大震災での東電福島第一原発の崩壊は、それまでの経産省(旧通産省)の原発拡大路線を根本的に見直す機会でした。
しかし経産省も原発メーカーも電力会社も、そして原発利権に群がっている政治家や大学教授たちからなる原子力村も、それまでの行き方に対する反省を示すことなく、これまでの路線の継続を図ったのです。
JR東海もまた、リニア新幹線に関してそれまでの方針の堅持を表明し、そのための絶対条件として原発再稼働を確認したのです。それが上記の葛西の談話だったのです。
この方針は、その後も変っていません。
REMEMBER3.11