紙つぶて 細く永く

右の「読者になる」ボタンをクリックし読者なっていただくと記事更新時にお知らせが届きます。

}

山本義隆氏に学ぶリニア新幹線について その2

線路は続く 目次 

山本義隆(科学史家、元東大全共闘議長)

再度リニア新幹線について、という山本義隆(科学史家、元東大全共闘議長)の文章を読み、リニア新幹線について学びます。

山本氏には多くの著作がありますが、その中でも有名なものは「磁力と重力の発見」です。

氏は本来物理の専門家で、東京大学在学中は一時京都大学基礎物理学研究所に国内留学し後にノーベル賞を受賞する湯川秀樹の薫陶をも受けた。

その将来を嘱望されていたが、おりしも展開した東大全共闘運動にかかわることとなり、東大全学共闘会議の議長を務めた。

そのことに湯川秀樹は惜しい逸材を獲られたと大変嘆いたと伝えられている。

全共闘としての活動で1969年に逮捕された後、氏は大学を去り、予備校講師として物理の講義を続けた。その成果が上記2003年刊行の「磁力と重力の発見」に繋がる。

以下山本氏の文章に準じ、物理学の先覚からリニア超伝導についてその基礎から学んでゆく。

今回はその2回目(文中敬称略)

山本義隆氏に学ぶリニア新幹線について その1 に戻る

リニア新幹線の仕組み

コイルに電流を流したものは電磁石として磁石とおなじ働きをします。

リニア新幹線は線路上に固定したコイル(地上コイル)と列車に搭載したコイル(車上コイル)の両方に電流を流してそれらを電磁石にし、

その反発力で列車を地上から浮かせ、またその極の間の斥力(反発力)と引力(吸引力)を旨く使って、列車を前に進めさせるものです。

そのさい、超伝導コイルを使っているのは車上コイルだけで、

地上コイルは常伝導コイルです。

したがって車上コイルに対しては出発前に電流を流せば、超伝導状態が持続しているかぎり、いつまでも流れていますが、

地上コイルに対してはつねに電力を供給し続けなければならない仕組みです。

誤解されるリニア新幹線

リニアモーターカー開発の第一人者と言われている京谷好泰(元日本国有鉄道浮上式鉄道技術開発推進本部長)の書には次のような記述が見られます。

『リニアモーターカー』  リニアモーターカーの場合、この永久電流モードを使えば、車庫でコイルに電流を流し、永久電流モードにすることで、電源と接続するパワーリードを外し、営業線に出てゆくことができる。このようにすると、営業中〔運転中〕はコイルに外から電力を供給する必要はなくなる。(『リニアモーターカー』p.76)

この文章には電力を供給しなくとも走り得るように書かれていますが、

これは誤解を招く書き方です。

まず、電源への接続が不要なのは(超伝導である)車上コイルにたいしてだけであること、です。

f:id:greengreengrass:20200923104045p:plain

産業技術総合研究所の阿部修治の2013年の論文「エネルギー問題としてのリニア新幹線」には 、

「JRリニアは他の磁気浮上システムとの違いを強調して<超伝導リニア>とも呼ばれるが、超伝導で走るわけではないので誤解を招く表現である。

列車の駆動力は地上コイル(常伝導)から供給されるのであって<超伝導だから消費電力が少ない>などというのはまったくのあやまりである」

とあります(『科学』岩波書店、2013年11月)。

(動くのは列車=車上コイルなので、駆動力を与えるのは地上コイルの磁力)

そしていまひとつには、超伝導状態を作るためだけでも相当の電力が必要なことです。

リニア新幹線に必要な電力

地上コイルから見てゆきましょう。
 リニアモーターカー駆動のために(常伝導である)地上コイルに供給される電力について、前回見たようにJR東海側の見解は、1989年にJR総研の尾関雅則(元鉄道総合技術研究所理事長)が語った、

従来の新幹線の3倍というもので、その値がその後も語り続けられています。

 1990年に交通新聞社から出された『時速500キロ「21世紀」への助走』 には書かれています。

『時速500キロ「21世紀」への助走』「新幹線の3倍、航空機の半分」と言うのが、現在のJR総研の“公式見解”。
3倍の根拠は単純。
新幹線とリニアの走行抵抗〔空気抵抗〕の差だ。
走行抵抗は速度の2乗に比例するから「時速500キロのリニアは〔時速250キロの〕新幹線のおよそ4倍強の抵抗を受ける。
しかし、車輌断面積を小さく空気抵抗を低くしたため実際は3倍で済む」
(澤田一夫JR総研浮上式鉄道関連開発推進本部主任研究員)(p.82)

従来の新幹線そのものが相当に電力を必要とし、その3倍でも相当な量ですが、それでもこれはやはり過小評価のようです。

 上記の阿部論文では、走行中に働く抵抗力として

「空気抵抗」だけではなく

「機械抵抗」

「磁気抵抗」をも考慮し、そのそれぞれにたいして丁寧な考察をし、

「JRリニアの消費電力は時速500km49メガワット〔=49万キロワット〕と予測され、〔従来の〕新幹線の約4.5倍が必要である」

として

 JRリニアの消費電力は新幹線の4~5倍

と結論づけています。

一方

JR東海の予測 ではリニア新幹線の消費電力を下図のように見ている。

f:id:greengreengrass:20200923141449p:plain

首都圏から関西圏8本/時間運転時74万kWとしている。

東海道新幹線の電力東海道新幹線の電力について、Webによると「500系新幹線のぞみ号は新大阪~博多間2時間17分の走行時間において2万KWの電気を消費」という指摘がある。

一方 JR東海HP にはN700系の新大阪から東京間の走行実績による算出として1座席あたりの電力を90MJとしている。

1座席 16両編成座席数wiki =1kW  新大阪-東京間使用電力
90MJ 1323 119070MJ 3.6MJ 33075kW
計算すると3万3000kW/本の消費電力となった。

現在東海道新幹線の新大阪駅-東京駅の全区間を走行する列車は、今春から大幅に増え494本/平日です。他に名古屋発等数本あり。

東海道新幹線運行本数2020年9月ダイヤ

新大阪-東京全区間走行列車

上り 244
下り 250
494
以上により計算すると、現在の東海道新幹線による消費電力は最低でも、
1633万kW/日の電力を使っている。

JRリニアの消費電力は新幹線の4~5倍という数値にたいするJR側からの反論は聞かれません。

 阿部の議論は丁寧で綿密であり、反論しようがなかったのでしょう。

応用物理学者で機械工学の研究者・新宮原正三の2016年の書『科学技術の発展とエネルギーの利用』(コロナ社)にも「リニアモーターカーの使用電力が、新幹線の約3~5倍と見積もられている」と書かれています(p.75)。

この値が機械工学やエネルギー問題の研究者のあいだでほぼ認められているということでしょう。

山本義隆氏に学ぶリニア新幹線について その1 に戻る

山本義隆氏に学ぶリニア新幹線について その3 に進む

線路は続く 目次

 

 

2020年発表JR各社の決算より
  • JR北海道
    2020年3月発表決算
    運輸収入「875億円」:赤字「▲521億円
  • JR四国
    2020年3月発表決算
    運輸収入「260億円」:赤字「▲136億円
  • JR東海
    2019年3月発表決算リニア新幹線関連投資予算額3100億円)
    2020年3月発表決算
    運輸収入「1兆4222億円」:鉄道部門利益額「6167億3300万円」
    (2020年3月発表決算リニア新幹線関連投資額未掲載)
  • JR東日本
    2020年3月発表決算
    運輸収入「1兆9692億円」:鉄道部門利益額「2540億9500万円」
  • JR西日本
    2020年3月発表決算
    運輸収入「9318億円」:鉄道部門利益額「1054億1200万円」
  • JR西日本
    2020年3月発表決算
    運輸収入「9318億円」:鉄道部門利益額「1054億1200万円」
  • JR九州
    2020年3月発表決算
    運輸収入「1652億円」:鉄道部門利益額「200億8900万円」

REMEMBER3.11