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ある公立高等学校の変遷6 進学率から見えるもの

前回は1950-1995年の都道府県別進学率を見た。全体でいうならば京都府の教育は進学率という面では高い成果が見られた。
次にはより細かく、主要高校の大学進学率について見てみる。下記に資料が入手できた1965年以降の各高校京都大学合格者を掲載した。この年代の資料を見るので新しい新設高を除いた京都市内の主要13高校を取り上げた。
参考資料として「東京都立日比谷高校」の東京大学合格者数も併載した。

京都大学合格者(サンデー毎日その他より集計)東大合格

京都大学合格者(サンデー毎日その他より集計) 東大合格
  鴨沂 洛東 洛北 紫野 堀川 嵯峨野 桃山 山城 朱雀 日吉ヶ丘 乙訓 塔南 日比谷
1965 34 10 22 33   20 20 15 20 15 5     181
1966 20 5 37 31 20 20 15 15 15 20 15   11 128
1967 22 11 26 37 15 19 14   16 15 10     134
1968 22 11 28 43 15 19   18 14 20 9 9 20 131
1969 6 13 14 31 14 15 13 5 7 6 6 7 6 中止
小計 247 50 288 347 64 93 89 53 72 76 45 16 37 1425
1970 26 10 20 31 15 10 9 10 10 14 10 6 10 99
1971 8 7 14 18 9 20 6 6 6 9 5 12   57
1972 8 7 11 17 9 13 7   8     5 5 52
1973 6 5 10 15 10       8 5 10 8 6 29
1974 8 3 15 13 5 9 5 5 10 7 12 10 9 27
1975 10 3 4 19 7 11 5 2 8 5 7 7 7 16
1976 8 2 11 8 8 9 4 7 7 5 3 13 8 17
1977 3 5 9 11 2 7 2 2 4 9 4 10   14
1978 9 3 8 15 9 9 2       3 7   14
1979 3 4 14 9 3   4 2 6 4 2 6 2 18
小計 89 49 116 156 77 88 44 34 67 58 56 84 47 343
1980 6    2                1  1   10
1981 7   7 3 4 5 3 2 5 4   9 2 4
1982 7   6 5 2 4   2 2     4 2 5
1983 8   2 7 3 4       2   4   5
1984 4   2 1   4 2   4     3   6
1985 5   3                 3    
1986     5   7   2       6 2   10
1987     3     5     2 3       10
1988 2 2 4 6   1 2 1   1 1 5   10
1989 1   1 3   1   3 2   1 2 1 11
1990 1   2 3 1 5 2 1 1 2 1 2 1 8
1991 1 1 5 3   1 1 1 2   1     7
1992     2 4   1 3 2 2 2 2   1 8

 

 


この結果から上記公立高校は京都大学入学者数で長期低落傾向にあることは否めない事実である。
 このことについて多数の説明では進学に特化した私学がこの時期以降勢いを増したということを指摘される。
そしてまた上の表から読み取れる大きな特徴としては、1970年を境に公立高校の京都大学合格者数が激減していることが上げられる。
資料の整っている期間(1965年-1979年)の上記13校京都大学合格者数移動平均を求めると以下になる。

京都大学合格者
  公立13校 洛星+洛南
1965 199 63
1966 214 68
1967 207 70
1968 220 72
1969 193 62
1970 189 62
1971 150 62
1972 132 68
1973 101 63
1974 99 61
1975 101 58
1976 104 63
1977 88 69
1978 78 75
1979 69 83
3年間の移動平均

1970年といえばすでに団塊の世代が高校卒業を終えている頃になる。

社会的には「70年安保闘争」があり、そのあおりで1969年東大入試が中止となった。

しかし京都で東京大学についていえば他府県への進学・下宿住まいというハードルもあることから、かねてから地元にあるゆえに京都大学への指向が高いのでこの影響も少ない。

制度上の面から変化を考えるなら、1963年に京都市立塔南高等学校が創立され京都市教育委員会は独自に京都市立高校の単独制移行を実施、特に商業科工業科を中心に通学区域の変更となった。
これを受けて、1965年には京都市域の小学区制としての通学区が変更された。
教育の成果は、「教師」「教育制度」「生徒」という3つの要素から成り立っているので、「生徒」が変わることで3分の1を超える多大な影響ではないだろう。
 つまるところ1970年前後にこの「教師」「教育制度」「生徒」3要素それぞれにかかわる大きな変化があったのだろうと推測する。
 進学に特化した私立高校がこの時期以降勢いを増した影響と解説する向きが多いが、上記数字を分析すると、1965年から1979年としての私立高校からの合格者数増と公立高の合格者数減は反比例ないし関連した動きを見せていないので、長期的にはともかく、この時期の京都大学合格者について両者の相関関係は強くないと思われる。
上記洛星・洛南の合格者数との比較参照 
 また上記13校のうち70年前後で合格者数に大きく差がついたのは、以下に見るように「鴨沂」「洛北」「紫野」「桃山」の順となる。

13校+1それぞれの1970年以前と比較した1970年以後の京大合格者比率
*日比谷高校は東大合格者数での比較
鴨沂 18.0%
洛北 20.1%
紫野 22.5%
桃山 24.7%
山城 32.1%
38.2%
朱雀 46.5%
嵯峨野 47.3%
洛東 49.0%
堀川 60.2%
日吉ヶ丘 62.2%
塔南 65.3%
乙訓 262.5%
洛星+洛南 98.95%
日比谷 23.9%

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1965年から75年までの鴨沂・洛北・紫野・桃山の通学区

調べていてある公立高校に同一の現象をみつけた。東京の日比谷高校である。京都の公立高校と同じように1970年の前と後で進学先:東京大学合格者数に大きな変化が見られた。

1970年 何があったのだろう。

強いて関連する数字を探してみた。

高等教育機関の種類と数の増加(カッコ内は私立)(1955~1990年)

大学・短大 高等専門学校
1955年 492(326)
1960年 525(354) 19(2)*62年
1970年 862(688) 60(4)
1980年 963(753) 62(4)
1990年 1100(996) 62(4)

教育段階別の生徒・学生数の推移(1948~1990年):単位千人

幼稚園 小学校 中学校 高校 短大・大学
1948年 199 10775 4793 1203 12
1950年 224 11191 5333 1935 270
1960年 742 12591 5900 3239 709
1970年 1675 9493 4717 4232 1670
1980年 2407 11827 5094 4622 2206
1990年 2008 9373 5369 5623 2612

上の表は全国の10年毎の大学短大の数と在学学生数の変化である。上記2表とも「日本の教育史の概観」斉藤 泰雄より作成

1960年1970年の比較をしてみると、大学数は 1.6倍 学生数は2.35倍と飛躍的に伸びている。いわゆる大学への門が広くなることにより、難関校を避けより緩い門に集まる、ということなのか。京都府内の大学定員の拡大との比較検討をしてみる。


下の表で京都府の各大学定員の増加数と公立13校の京大合格者数を年度順に並べてみた。

年度 京都府大学定員 公立13校京大合格者
1965 66822 199
1966 73408 214
1967 81657 207
1968 88673 220
1969 94406 193
1970 97243 189
1971 99634 150
1972 102551 132
1973 106397 101
1974 111924 99
1975 115318 101
1976 116772 104
1977 117455 88
1978 115097 78
1979 114333 69


そして京都府の各大学定員と公立13校の京都大学合格者数を関連グラフにしてみた。

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京都府内大学定員と全国大学数は1979年を100とし、
公立13校京大合格者は1965年を100とした。


大学への門が広くなるとともに、京都大学等難関校進学者が少なくなる因果関係(のようなもの)が見えたのかもしれない。

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