山本義隆(科学史家、元東大全共闘議長)
再度リニア新幹線について、という山本義隆(科学史家、元東大全共闘議長)の文章を読み、リニア新幹線について学びます。
山本氏には多くの著作がありますが、その中でも有名なものは「磁力と重力の発見」です。
氏は本来物理の専門家で、東京大学在学中は一時京都大学基礎物理学研究所に国内留学し後にノーベル賞を受賞する湯川秀樹の薫陶をも受けた。
その将来を嘱望されていたが、おりしも展開した東大全共闘運動にかかわることとなり、東大全学共闘会議の議長を務めた。
そのことに湯川秀樹は惜しい逸材を獲られたと大変嘆いたと伝えられている。
全共闘としての活動で1969年に逮捕された後、氏は大学を去り、予備校講師として物理の講義を続けた。その成果が上記2003年刊行の「磁力と重力の発見」に繋がる。
以下山本氏の文章に準じ、物理学の先覚からリニア超伝導についてその基礎から学んでゆく。
その3回目(文中敬称略)
「液体ヘリウム」
次にいまひとつの問題。
先のからの引用にあったように、導線を超伝導状態にするために必要な液体ヘリウムを作るためにも、
相当の電力を必要とするということについて見ておきましょう。物体を冷却するためには、自分より冷たい物体に接触させるか、そうでなければ外から仕事を加えなければなりません。
絶対零度近くまで冷却するには、もちろんそれより冷たい物体に接触させるという方法は使えませんから、たとえば特殊な気体を圧縮して急激に膨らませると温度が下がること等を使います。
クーラーや冷蔵庫はそのことを使っています。
そのさい気体の圧縮に電力が必要なのです。
冷蔵庫で室温(摂氏20数度)から摂氏0度近くまで冷却するためにも電力を要します。
低温になればこの過程はより困難になりますから、液体ヘリウムを作るためにも相当の電力が必要なのです。
それにしてはそのことに触れている文献がほとんど見当りません。私の見たかぎり唯一の例外は『危ないリニア新幹線』(リニア・市民ネット編、緑風出版、2013)の懸樋哲夫の手になる第6章「リニアのジレンマ」で、
そこには「液体ヘリウム冷却のために厖大な電力を要する」とあります(p.222)。
ただし、実際にどれだけの量のヘリウムを必要とするのかはどこにも書かれていないので、列車1台走らせるのに必要なヘリウム冷却のための電力がどの程度なのかについては、よくわかりません。
ヘリウム冷却のための電力についてなぜ書かれていないのかというと、日本はもっぱら既製品つまり冷却して液化されたヘリウムをアメリカから相当な価格で購入しているからだと思われます。
その価格については、先述の
岩田の書には「1リットル2000円」(p.14)、
京谷の書には「アメリカで1リットルが1ドルのものが、日本では1万円になる」とあります(p.96)。
二つの価格に大分開きがありますが、いずれにしても安いものではありません。
ヘリウムそのものについて言うと、問題は価格だけではありません。
ヘリウムが採取できる国はアメリカ合衆国とロシアとポーランドだけであり、すこし古いが専門書には「現在の世界のヘリウム市場は量・価格ともにアメリカの動向いかんにかかわっている ……。
ECC諸国のようにポーランドからの平行輸入を持たない日本その他の諸国は一層その度合いが大きい」、
「現在の技術で経済的に採取可能なヘリウム資源は …… 有効に利用されないままに年々減少しつつある」(『超伝導応用技術 実際と将来』シーエムシー、1988、p.78f.)
とあります。
その後、大きな変化があったのかどうかは知らないのですが、供給が不安的であることは変わらないでしょう。
このように高価なばかりか不安定な資源に依拠した技術は、そのことだけで公共的使用にきわめて不向きと思われます。
結局、超伝導だから電力を必要としないというのは、液体ヘリウムの購入価格に繰り込まれている超電導状態を作るための電力を無視していることを意味します。
同様な論理は、他にも見られるので、すこし脱線しておきます。
REMEMBER3.11