その真理から出立して都会的生活を送るすべての男女は両性間の引力において、
ことごとく隋縁臨機に、測りがたき変化を受けつつあるとの結論に到着した。
それを引き延ばすと、既婚の一対は、双方ともに、流俗にいわゆる不義の念に冒されて、
過去から生じた不幸を、始終なめなければならない事になった。
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代助は、感受性の最も発達した、また接触点の最も自由な、都会人の代表者として芸妓を選んだ。
彼らのあるものは、生涯に情夫を何人取り替えるかわからないではないか。
普通の都会人は、より少なき程度において、みんな芸妓ではないか。
代助は渝らざる愛を、今の世に口にするものを偽善家の第一位に置いた。
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ここまで考えた時、代助の頭の中に、突然三千代の姿が浮かんだ。
その時、代助はこの論理中に、ある因数は(を?)数え込むのを忘れたのではなかろうかと疑った。
けれども、その因数はどうしても発見する事ができなかった。
-夏目漱石「それから」-