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日本の鉄道はこのままでいいのだろうか 29 線路は続く15

線路は続く 目次

線路は続く15 イコールフッティング

イコールフッティング論

交通機関で交通政策面からの調整方法としてイコールフッティングという論点がある。特定の交通機関が競争上偏った取り扱いを受けることがあってはならない。競争が、不公正、不平等な条件下で展開されている(どこかの国で最近モリカケ問題できいた話と同じだ)とすれば資源配分が歪められる。
 例えば自動車・バスは道路を走り道路の諸設備(信号等)を利用する。これらは行政が設置整備する。飛行機・船は空港・港その他をこちらも行政が整備する。
ところが鉄道は鉄道路線の用地買収からレール設置、信号や停車場の整備等鉄道事業者が行う。
交通機関でこのように条件が異なると、どうしても公平な競争といえない、という論理だ。
調べるとこのイコールフッティングについていろいろ考課があるようだ。
英語のイコールフッティングとは、「平等な足元」くらいの意味で、各交通機関でそのよって立つところの「路線基盤(通路)」の不平等に注目する理論。
具体的には、自動車は行政で整備された道路を無償で使用するが、鉄道は線路は自前で作る。
日本では歴史的にも民間鉄道を国鉄が買収し、国鉄からJRへとその負債とともに路線は継承された。
1987年に承継されたその面積は以下になる。

1987年 国鉄用地の引継ぎ 単位ha
国鉄用地 65380 北海道 15270
    東日本 17940
    東海 3740
    西日本 9940
    四国 1320
    九州 4490
    貨物 1620
    新幹線保有機構 2820
    その他 60
    承継法人合計 57200
    国鉄清算事業団 8180

 そしてその用地には以下の各種税制優遇処置をとられている。最も広い鉄道用地は固定資産税評価を1/3に減免されている。

鉄道一般税制
項  目 税 目 措置内容
市街地区域または飛行場及び
その周辺区域内のトンネル
固定資産税 非課税
踏切道・踏切保安装置 固定資産税 非課税
既設の鉄軌道に新たに
建設された立体交差化施設
固定資産税 非課税
市街化区域における
地下道・跨線・道路橋
固定資産税 非課税
河川等の工事に伴い
新設又は改良された
橋梁及び新設された
トンネル等に係る鉄道施設
固定資産税 5年間1/6、その後5年間1/3
水資源機構に係るものは、
5年間2/3、その後5年間5/6)
鉄軌道用地の評価 固定資産税 沿接する土地価格の1/3評価
鉄軌道事業の本来事業用施設 事業所税 非課税

国交省に2015年のJR各社線路用地集計があった。各社1987年からの増減がいくらかある。

鉄道線用地
  線路用地 停車場用地 その他 合計 1987年
からの増減
  ha
北海道旅客鉄道 5139 1408 4715 11261 -4009
東日本旅客鉄道 8901 3301 4539 16740 -1200
東海旅客鉄道 3006 909 836 4751 1011
西日本旅客鉄道 5451 2388 1493 9331 -609
四国旅客鉄道 1059 281 25 1365 45
九州旅客鉄道 2644 1195 124 3963 -527
日本貨物鉄道 116 1372 63 1551 -70
総合計(JR) 26316 10852 11793 48961 -5359

固定資産税JRが全国で支払う固定資産税の総計がいくらになるか不明だが、会計検査院他に以下JRや国鉄清算事業団に関する資料があった。

固定資産税

国鉄清算事業団の固定資産税

  • 平成5年から9年、つまり5年間で国鉄清算事業団は固定資産税を29億4588万円ほどを支払っている。
  • また東京都議会予算特別委員会速記録第四号「民営鉄道事業者との負担の公平を図る観点からも、特例措置は廃止すべきであると主張いたしました。その結果、JR東日本などについては、当初の予定どおり特例措置が廃止され、二十三区では約百億円の増収」とある。。
  • JR東日本決算では2018年度の「公租公課を970億円」と予測
  • JR東海決算では2017年度の実績「公租公課396億円」

 

経済の側面からは、かって鉄道事業には参入に対する規制があり、いわば独占的に市場を占有し内部補助で鉄道事業の存続をはかった、という解説がある。
そして、永年の事業活動でその路線用地の価値は埋没している、つまり価値0と判断される。
このように経済学者はときに一般人にとって理解しがたい説を述べる。
つまりこれは多くの路線では創設されてから今までの期間で用地取得に関する経費は償却済、したがって現在コストはかかっていない、という説らしい。これが鉄道路線に対するイコールフッティングを頓挫させた有力な説明だ。
ところがどっこい、歴史を見ると参入規制を実施したのではなく往年の日本政府は民間での鉄道開設を大いに奨励した。

週刊鉄道経済 杉山淳一鉄道開業から114年にわたり「鉄道の費用はすべて鉄道事業者が負担する」という仕組みだけだった。
実際には鉄道国有化の流れがあり、国が鉄道を負担した時代がある。
しかし民間鉄道については鉄道会社負担の原則だ。
それはなぜか、 簡単に言うと「鉄道がもうかったから」である。
明治5年に新橋~横浜間で鉄道が開業した翌年の数値を見ると、 年間の旅客収入は42万円、貨物収入は2万円、経費は23万円。つまり利益は21万円だ。利益率約5割。 こんなにおいしい商売はない。
もちろん沿線は活気づく。鉄道はもうかる。そこで全国の資産家や有志が鉄道建設に乗り出した。
当時の国は「鉄道は国策であり国営であるべき」と考えていた。これは軍事輸送の観点も大きかった。 利益の出る国営事業として独占したいという気持ちもあったと思われる。
しかし、全国の幹線鉄道を整備する資金が明治政府にはなかった。
そこで、どうしても鉄道を開業したいという者に対して、国が免許を与えた。
ここから、民間鉄道は自己資本で鉄道を建設し、政府は免許を与えるという図式が始まっている。
しかし軍部の要請で1906年に鉄道国有法が施行され、北海道炭礦鉄道、日本鉄道(関東・東北方面)、山陽鉄道などが買収された。
これは戦時買収のような屈辱的な条件ではなく、かなり良い値段で買い取られた。 そうなると、勢いで建設した小さな鉄道会社も、政府に買い取ってもらおうと売り込み始める。
その中には、初めから国に買い取ってもらうという前提で鉄道建設に着手したり、免許を取得した会社もあった。 運行しなくても、政府に売り払うとしても、結局、鉄道はもうかる。それは政府も承知だった。
 そしてなぜか、100年以上経過しても、この考え方は国策で改められていない。国営鉄道は赤字で失敗した。
本当はこのときに鉄道はもうからないという認識を持つべきだった。そして、上下分離を実施し、鉄道と他の交通手段との不公平を解消すべきだった。

なぜ鉄道で「不公平政策」が続いたのか? (5/5) - ITmedia ビジネスオンライン


(指摘されているように、ここでも国鉄分割民営化時のつまずきがある)

参入の制限は、法規制などではなく、既存の鉄道路線の横に同じような経路を持つ鉄道を開設しようとする無謀な事業を、当然事業家は目指さないという経済法則の帰結なのだ。
(もっとも経済学的にはこれも「参入規制」になるらしい)
もちろん、儲かるという点だけからではなく環境経済的に交通政策が検討されなければならない。(その点からも自動車に比して鉄道は圧倒的に優位だ)

上下分離・フリーアクセス

これに対抗する流れとしてヨーロッパでは、鉄道事業の公共的部分と企業的部分を分離した。
逆に考えると鉄道はそもそも企業的(利益追求を目的とした)部分だけで成立するものではない、という理論だ。
鉄道事業は、下部構造たる鉄道路線とそれを用いて輸送サービスの生産を行う上部構造から構成される。
これまでは、多く下部・上部構造とも単独の独占的事業者によって経営が行われてきた。
その結果鉄道事業の生産機構は垂直統合的に構成され、その中で線路施設はネットワーク構造を持っている。
鉄道事業において経済合理性を実現する中枢機構こそこのネットワーク構造たる鉄道路線である。
この視点に立ちヨーロッパでは上下(構造)分離、そして上部ネットワーク構造部分についてはオープンアクセスという制度改革を行った。鉄道事業は独占的な事業ではなくなった。
とはいえ下部構造に巨額の資金を投下して建設し転用もできない鉄道線路にあえて参入しようとする事業者はいない。
しかし上部ネットワーク構造にアクセスしないことには輸送サービスの生産は不可能なので下部構造へのフリーアクセスが必要となる。かくして鉄道線路へのアクセス権は標準化、市場化され参入を希望する事業者は必要な条件を満たせば鉄道線路を利用する権利が得られた。

新規参入事業者は鉄道線路を所有していないため、投資埋没化のリスクから解放され、鉄道輸送事業への参入・退出を行いやすくなる。

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