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日本の鉄道はこのままでいいのだろうか 12 

線路は続く 目次

線路は続く2

(文中敬称略)

昭和40年代(1965年ー1975年)にかけて続いた国鉄労働運動の泥沼の攻防もあって、この期間国鉄の赤字は加速度的に膨れ上がった。
そして1976年2月に藤井国鉄総裁が更迭され、前大蔵事務次官高木文雄が国鉄総裁についた。大蔵省の事務次官からの転身ということで、政府としてもその役に付くことをねぎらい「お土産」を持参させた。それは前大蔵事務次官が国鉄総裁に就任するのだから、大蔵省としてもそのまま赤字を継続するわけにはいかないだろうと云うことから起因するものだった。
 その骨子は、累積赤字額のうち、2兆5404億円を「特定債務」として一般勘定から区分し、国鉄から切り離す、そしてもう一つが赤字ローカル線にたいする助成である。そして最大のお土産は76年6月から運賃を一挙に50%値上げするというもの。年間5300億円の増収を見込み、就任した高木総裁も「これで国鉄財政は安泰だ」と心情を吐露した。
その76年に実施された50%値上げの前年、1975年は今も続く人気旅番組「遠くへ行きたい」が国鉄の提供で始まった年でもあるが、同年の6月16日から連続3日間、新聞全国紙にPRの常識を覆す広告が掲載された。
 国鉄による全面意見広告「国鉄は訴える」というシリーズで、プロデュースはCM界の鬼才藤岡和賀夫。藤岡は1970年には同じ国鉄の「ディスカバージャパン」キャンペーンを手掛けていた。


第一回初日の広告のタイトルは
「国鉄(わたしは)話したい」

 

f:id:greengreengrass:20170410221630j:plain

* 以下はその全文。

 「国鉄連賃を二倍に」という話
を、あなたはお聞きになったこと
があると思います。
 もしあなたが初めて聞かれたの
なら、さぞかしびっくりされたこ
とでしょう。
 しかし、国鉄が、将来とも国民
の国鉄であり続けるためには、ど
うしても、そういわなければなら
ないのです。
 そして、そのために私は、現在
の私の財政状態のすべてを率直に
あなたにお話ししようと思い立ち
ました。
 それはまた、あなたの理解と協
力なしには存在し得ない私に、当
然課せられた責務と考えるからな
のです。

 

 昨日も今日も、私は働いていま
す。
 日本中二万キロに列車を日夜動
かしていますし、四十三万人の仲
間が、駅の窓口やホームで働いて
いるのをあなたは今日も見たでし
ょう。
 私は働いているのです。少々無
愛想なところがあるかもしれませ
んが、ともかく一所けんめいに働
いているのです。

  だからといって、それを私の財
政が健全だと誤解されては困りま
す。正直にいいたいと思います
が、私が自分自身の力で私の大き
な体を養うことができたのは昭和
三十八年まででした。それからの
十年間は赤字経営の連続です。

 

毎年の赤字は
 昭和三十九年度
           三百億円
 四十年度
        一、二三〇億円
 四十一年度
          六〇一億円
 四十二年度
          九四一億円
 四十三年度
        一、三四四億円
 四十四年度
        一、三一六億円
 四十五年度
        一、五一七億円
 四十六年度
        二、三四二億円
 四十七年度
        三、四一五億円
 四十八年度
        四、五四四億円
 四十九年度(見込み)
        六、七七六億円
 五十年度(見込み)
        七、七八四億円

 

 そうです。私がいま最初にいお
うとしていることは、最近特に問
題化してきた私の財政のことなの
です。

 昭和五十年、私の財政は、累積
赤字三兆一千億円、借入金六兆七
千億円となります。
 三兆一千億円という赤字をあな
たはどう思いますか。ある人は
「凄い赤字だなあ、民間企業なら
とうに潰れている。さすが親方日
の丸だ」と感心してくれます。
また、ある人は、「何だ、そんな
のは、アリストテレスーソクラテ
ス・オナシス一人の財産ていどの
話じやないか」と馬鹿にしてく
れます。
 問題は、冗談じゃなしに、私が
民間企業でもなければ、ましてや
オナシスでもないところにあるの
です。
 私は日本国有鉄道なのです。
れてはならない、また潰れること

 

が許されない企業なのです。とこ
ろが。この赤字はその私の存立を
脅かすほどの重圧になってしまっ
たのです。

 日本中の子供は小学校、中学校
の九年間の教育を殆ど無料で受け
ることができます。義務教育とい
う国の進んだ制度が、全国三万五
千の学校と、六十三万人の先生を
維持する財政を税収入で負担して
いるからです。これを義務教育費
といいますが、国が負担している
金額が昭和五十年で一兆三千億円
です。この財政、つまりは国民の
税金なんですが、このおかげで千
五百万人の子供達が、少くとも経
済的な心配なしに学校へ通えるわ
けです。
 国鉄の累積赤字三兆一千億円。
 これは全くあり得ないたとえな
のですが。国鉄の赤字をゼロにす
るためには、義務教育に対する国

 

の負担を。二年間一切やめても足
りないほどの大きさなのです。
 しかも、この赤字はいまのまま
ではふえることはあっても減るこ
とはない。いまの私は、一日働く
ごとに二十一億円の損をするので
す。
 あなたのために働くことを損だ
と考えたことは一度もありませ
ん。それは、少しでも喜んで貰う
ために精一杯のことをしたいし、
また、しているつもりですけれ
ど、働けば働くほど赤字が累積す
るという事実をあなたはどう思わ
れますか。
 「そんな事をいうなら働かなき
やいいじゃないか」とあなたはお
っしやいますか。きっとそうはお
っしやるまい。
 私が働かないということは、あ
なたの日常の不便につながるとい
うだけでなく、国にとっての重大
な損失でもあるということをあな
たはよくご存知だからです。

 

 「それなら、損をしないように
やればいいじやないか」とあなた
はおっしやいますか。きっとそう
はおっしやるまい。

 損をしないようにやる、という
ことは殆ど「運賃値上げ」に通ず
ることですから、あなたに限ら
ず、誰だって本能的にいやだと思
うに違いないからです。

 

 これはジレンマというもので
す。あなたにとっても私にとって
も。
 しかも、問題なのは。このジレ
ンマが実は何年も続いてきたとい
うことです。
 こういうと、何故、いまの私が
こうしたジレンマに陥ってしまっ
たのか、つまり、働けば働くほど
損をするという仕組みがどうして
出来てしまったのか。という疑問
がきっと起きるでしょう。

 

 当然です。そして、あなたに限
らず誰もが抱くこの当然の疑問に
答えることこそ私の責任であり、
そのことはおいおい明らかにする
として、ここでは、まず、どのよ
うにして私がこうしたジレンマに
対処してきたかをお話ししましょ
う。

 

 それは『借金』です。
 それこそ私は借りられる所から
は目一杯の僣金をしてその場を切
り抜けてきたのです。そして、そ
れが積もり積もって、五十年には
六兆七千億円を越えてしまう見込
みです。

 

昭和四十年度末債務残高
        一一、一〇二億円
  四十一年度
       一三、六八九億円
  四十二年度
       一六、四三五億円
  四十三年度
       一九、三〇六億円
  四十四年度
       二二、四九一億円
  四十五年度
       二六、〇三七億円
  四十六年度
       三〇、八七一億円
  四十七年度
       三七、一九一億円
  四十八年度
       四二、六七九億円
  四十九年度(見込み)
       五五、三七四億円
  五十年度(見込み)
       六七、三〇五億円

 

 私がもし健康に見えるとすれば
それは、借金というカンフルによ
ってそう見えるだけのことなので
す。
 私の抱えた厖大な借金は、こう
して私の経営上のジレンマの根本
的解決を回避したばかりか。私の
健康を偽装したのです。

 

 こうしてふえてきた借金が、こ
こへきて私の死命を制するほどの
ものになった、と私は訴えたいの
です。それは、ただ金額が大きい
というだけでなく、このように日
々に損を重ねるいまの状態では、
毎日の生計費のためだけでなく、
借金の借りかえや利子の支払いの
ためにも借金を重ねざるを得ない
からなのです。
 この借金は国鉄がしたもので
す。しかし、それは決して自分勝
手にしたものではなく、国のた
め、あなたのために必要な、日本

 

国有鉄道の役割に於て止むを得ず
したものです。
 国鉄は日本の財産のはずです。
 であれば、利用者にせよ、国民
にせよ、いつかの時代の日本人
が、この国鉄の借金を負担しなけ
ればならない、そういった性質の
ものではないでしょうか。
 あなたの先祖は、運賃という形
の支払いで健康な国鉄を育て、私
たちに引き継いでくれました。
 いま、これからの国鉄をどのよ
うに育てるかは、同様に、現在の
私とあなたとが真剣に話し合うべ
き問題ではありますまいか。
 借金だけでのその場しのぎはも
うご免です。
 それは何ごとも解決しやしな
い。問題を私やあなたの子孫に残
すだけのことです。しかも、膨れ
上がった形で     (続く)


第二回のタイトルは「あなたの負託に応えるために」

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以下はその全文。

 あなたが何気なくふだん手にさ
れる時刻表。あの一冊の中に国鉄
の全ての仕事が、一本の線、一本
の列車も漏らすことなく収められ
ている。正確にいえば、そのほか
にまだ、貨物列車もあります。
だからそれを含めた一冊分が。
国鉄の全ての仕事の、しかも一日
分です。
 これだけのボリュームの列車
が、一分の狂いもなく毎日毎日正

確に運行されなければ、私は私の
使命を全うしたとはいえないので
す。
 そのためには、四十三万人の職
員は地味な苦労を積み重ねている
のです。
 そんなことは、国鉄の使命を考
えれば当然だ、とあなたはおっし
ゃるかもしれない。
 しかし、その当然のことが実は
大変なことなのです。

 

 私は何も苦労の押し売りをする
つもりでそういうのではなく、
あなたから「当然」と思われるほ
どあなたの生活に密着してしまっ
た国鉄の役割を語りたいのです。

明治五年創業以来、百三年の
鉄の歴史に私は誇りをもっていま
す。

 それは日本の経済・文化の成長
に大きな貢献をしてきたという誇
であり、またそのことをあなた
も認めてくれるだろうという自負
心です。
 私はいま、客車と貨車を合わせ
て十六万両以上の車両をもってい
ます。それを編成して、一日平均
二万八千木の列車を動かしていま
す。その走る距離は約二百万キ
ロ。実に地球五十周分の距離を毎
日走らせているのです。
 そして、私が運ぶ旅客の数は一
日千九百万人、一年で見ると六十
九億人の旅客輸送を私が受け持っ
ているということになります。

 

 また、貨物は毎日五十万トン、
一年では一億八千万トンを分担
ているということです。
 如何ですか。
 あまり数字が大きすぎて実感が
湧かないとおっしゃるのであれ
ば、こういうお話をすればわかっ
て頂けるでしょうか。


 私は北は稚内から、南は鹿児島
まで。旅客愉送では毎日不二百万
人の通勣通学の足となり、新幹線
では一日四十七万人の旅客を迎び
北海道の美幸線では一日百六十七
人の旅客を運んでいるのです。
 また貨物輸送では、日本人の食
生活になくてはならないお米のう
ち、生産県から消費地に運ぱれる
米の九〇%、青森から出るリンゴ
の五〇%を運んでいます。さら
に、東京付近で消費されるミカン
の九〇%。北海道産のジャガイモ
の六〇%をお届けしています。

 

 それぞれの使命と役割を担う、
一本一本の列車。それらがあなた
に示したダイヤ通りに走るため
に、駅、機関区、保線区、電力区
などあらゆる職場で、「安全・正
確」というただ一つの目的のため
に。昼夜を分たず雨も雪もいとわ
ない働きが続けられているので
す。
 あなたの目にふれない所で、あ
るいはあなたが見たこともない所
で集積される四十三万人の力の結
晶。それがダイヤ通りに走る一木
一本の列車なのです。
 一本のダイヤが生まれ、それが
あなたの駅で。時刻表の時刻通り
発車するまでに辿る車両計画、設
備計画、乗務員手配、他列車との
接続等々、厖大な仕事を一つ一つ
こなしていく長い準備も含めて。
あの時刻表は、あなたの負託に応
えようとする私の責任意志の表示
でもあるのです。

 

いま、日本で、三百六十五日、一
日二十四時間休みなし、というの
は警察と消防のほかには国鉄ぐら
いのものではないでしょうか。あ
なたが眠っている深夜にも、国鉄
では七万人が働いているのです。

 このように重要な役割を果たす
ためにあの厖大で緻密な一冊の時
刻表が出来上がり、その運営のた
めには実に二兆七千億円を越える
経費がかかるのです。


  五十年度の経費は
  人件費  一四、六四三億円
  物件費   五、三四四億円
  公団借料    二五一億円
  市町村納付金  一五一億円
  利子など  四、一五一億円
  減価償却など二、八二二億円
  営業外経費    三六億円
  合計   二七、三九八億円
 その結果、五十年の国鉄収支は
七千七百八十四億円の赤字になる
見込みです。

 

  収入  一九、六一四億円
  (うち運輸収入
      一六、六五六億円)
  支出  二七、三九八億円
   赤字  七、七八四億円
 このままいけば、五十一年には、
運輸収入が赤字額とほぼ同額とな
ってしまう見込みです。
 「まだまだ合理化の余地はある
だろう」とあなたはおっしゃるか
もしれない。
 何をするにも経賞は安い方がい
いに決まっていますから、「余地」
について研究し、努力しなけれぱ
ならないことを私も認めます。

 この十年間は、ずっとこういう
赤字続きの財政状態だったのです
が、もちろん私はこんなに財政事
情が悪化していくのを、放ってお
いたわけではありません。私なり
の努力を続けてきました。一人で
も多くの人を、一円でも安い費用
で運べるように考えること、それ
も私の使命なのですから。

 

 例えば、昭和三十年には七〇%
もの列車を引っぱっていた蒸気機
関車(SL)を今年中に廃止する
のもその一つです。惜しんでくれ
る人もいますが、これは結局、動
力コストの節減になります。
た、旅行者の便宜を図る指定券自
助発売装置(マルス)の開発、出
札の機械化、列車のスピードアッ
プと乗心地の改善などによって旅
客を増やす努力。線路保守を機械
化し、電化、自動信号化を進める
など。近代化とともに人件費の節
減にもつながる努力も数多く行な
ってきています。

だから、これらのあらゆる努力
の集約的な結果として国鉄の仕事
の水準がいかに上がってきている
かは、次のように職員一人当りの
仕事量の向上で見ることが出来ま
す。(人トンキロとは旅客一人、
貨物一トンを1キロ運ぶ単位)

 

仕事量
昭和二十四年度
    一、〇〇八億人トンキロ
  四十年度
    二、三四五億人トンキロ
  四十五年度
    二、五七〇億人トンキロ
  四十八年度
    二、七〇一億人トンキロ
職員数
昭和二十四年度  四九・一万人
  四十年度   四六・二万人
  四十五年度  四六・〇万人
  四十八年度  四三・三万人

 

一人当り仕事量
昭和二十四年度
     二〇・五万人トンキロ
  四十年度
     五〇・七万人トンキロ
  四十五年度
     五五・九万人トンキロ
  四十八年度
     六二・四万人トンキロ

 

 二十四年に比べると、職員の数
は減っているのに、一人当り仕事
聚は約三倍にふえていることをお
わかり頂けると思います。
 そればかりか。この一人当り仕
事量は外国の国鉄よりもずっと多
いのです。たとえばイギリスの三
倍、西ドイツの二倍、フランスの
一・五倍もあります。
 私が、まだまだ高い目標を目ざ
さなければならないことは勿論で
す。しかし。いままでにも決して
その努力を怠ったり、忘れたりし
た日はなかったのに、一向に財政
がよくならないのは何故か、とあ
なたはお思いになりませんか。
 その上、これはいままでお話し
しなかったことですが。設備投資
にも莫大なお金がかかります。

 

 これは、ちょっと考えて頂けれ
ばすぐわかることですが、国鉄が
あと一年働くというのではなく、
将来とも働くためには、新幹線建
、通勤輸送改善、各種保安対策
の強化などに、四十八年の例で
も、八千億円に近い工事費がかか
ったのです。
 さらに、あなたの要望に応え、
サービスを改善していくために
は、もっと大きな投資が必要です。

 こうして私の借金は、毎年の赤
字を埋めるためと、将来の必要の
ため、遂に六兆七千億円にも逮す
るのです。
 これは国家予算の四分の一にも
当る金額です。
 こうした国鉄の現状と財政をわ
かって頂いた上で、私はあなたに
本当に問いたいのです。
 「あなたは国鉄を必要とします
か」と。      (統く)


第三回のタイトルは「健全な国鉄をめざして」

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以下はその全文。

 「国鉄運賃を二倍に」。
 これほど現在の国鉄の財政状態
を端的に表現した言葉はありませ
ん。
 つまり。前回までにお話しした
国鉄財政の収支状況を延長して考
えてみますと、いまのままの運賃
では必要な経費の半分しかまかな
えない時が、早ければ来年にもき
てしまうということなのです。
 私が十年来ひどい赤字で、累積
赤字も桁外れに多いことはこれま
でお話ししてきました。これをい
ままでのように、借金でつくろっ
ていくのは、問題の根本的な解決
を逃げて。私やあなたの子孫に、
より膨んだ形で残すだけだともい
いました。
 私はいまになって初めて、借金
だけでのその場しのぎはご免だと
いい出しだのではありません。

 

 ただ、それをあなたにいう声が
小さすぎた。また、そういう機会
も作らなかった。だから、いま私
がこんなことをいい出すと、ひど
く唐突に思われるかもしれない。
けれども、私の胸の中にはこれま
での十年間、たまりにたまってい
た思いなのです。

 私の赤字財政の基本要因には二
つの大きな問題があると私はいい
たい。
 ひとつは運賃水準の問題で、ひ
とつは地方交通線の問題です。
 あなたはご存じでしょうか。全
国二百五十五線のうち、黒字線は
たった三線しかないことを。

 

 いま仮りに国鉄全線を、運賃を
大幅に引き上げたとしても。絶対
に黒字になりっこなく、しかし公
共的役割からみて非常に重要な、
いわば公共負担線ともいえる「地
方交通線」と、適正な運賃水準さ
え保たれれば、全体として収支相
償い、しかも鉄道としての特性を
十分に発揮出来る「幹線系線区」
とに分けてみると、両方ともちょ
うど一万キ口ずつになります。

 四十八年度の全国鉄輸送量に占
めるシェアは
  幹線系線区    九三%
  地方交通線     七%
 そして。三十九年から四十八年
までの赤字額は
  幹線系線区 四、一九三億円
  地方交通線一二、一七三億円
 となります。

 

 つまり、私のこの十年間の赤字
額の四分の三は。七%の仕事量し
かない地方交通線から出ているの
です。
 実は、この地方交通線の赤字は
いまにはじまったことでなく。ず
っと昔からのことなのです。もと
もと地方交通線は、経済的にみて
鉄道にふさわしいだけの輸送量が
ない線区なのです。
 けれども、その地方にとっては
大切な交通機関だという公共的な
役割を担っているために、私は連
営し、そこから生じる赤字をいま
まで背負ってきました
 ところが、この十年間に著しく
発達したモータリゼーションの影
響や、人口の都市集中化に伴う過
密・過疎の問題などが、このとこ
ろ急激にその負担を大きくしてい
ます。

 今日では。私にとって、こうし
た地方交通線の赤字を負担するこ
とは大変な重荷なのです。

 

 「それにしても。二倍は異常
だ。いままでだって、そんなに上
げなかったじやないか」とあなた
はおっしやるでしょう。しかし、
私は敢えていいたい。「いままでの
上げ方が低かったのだ」と。

 たしかに、いままで四十一年に
も、四十三年、四十四年、四十九
年にも、それぞれ水準は違います
が、運賃は上がりました。
 けれども。その運賃値上げが根
本的な問題解決にはなっていない
ということは、事実、現在の累積
赤字額が証明しています。
しかも、いまや一年の経費をま
かなうだけで二倍も必要だという
ところまできてしまっている。あ
なたが好むと好まざるとに拘ら
ず、私はやはりこれまでの運賃の
方が異常に低かったといわざるを
得ません。

 

 また、運賃値上げの実施の時期
を遅らせられたりということがこ
れまでにもありました。
 四十九年十月一日から実施にな
つた運賃の場合もそうでした。こ
れは、四十七年四月一日実施の予
定で申請したのですが、四十八年
に国会で可決されたものの、実施
期日は二年六ヵ月もズレ込んでし
まったのです。
 しかも、この間に起こったオイ
ルショックによる物価の異常なま
での上昇は、あなたも記憶に新し
いことと思います。
 運賃値上げの決定が遅れても、
私はその間列車を止めて待ってい
るわけにはいかない。だから、そ
のために必要な経費の方はそれと
関係なくふえていき、それにつれ
て赤字もふえます。
 四十七年の値上げ予定が四十九
年になったために、私の借金は約
五千億円ふえた計算になっていま
す。

 

 理由はどうあれ、これまでの値
上げ率に比べていきなり二倍とは
ひどいじやないか、とあなたがお
怒りだとすれば、それはこれまで
運賃が抑えられてきたことを認め
ても、なお、他の物価に比べて上
げ過ぎだと思われるからかもしれ
ません。
 それでは、果たして他の物価の
上がり方に比べ不当なものでしょ
うか。
 昭和九~十一年を1とした物価
指数は、四十九年十月には次のよ
うなものでした.
  入浴料(東京)  一.五〇〇
  白米      一.一五〇
  ハガキ       六六七
 消費者物価平均    九三一
  卸売物価平均    六二六
  国鉄旅客運貿    三二七
  国鉄貨物運賃    二九五
  たとえば、ハガキと比較する
と、国鉄旅客運賃は約半分の値上
がりしかしていません。

 

 あなたの支払うお金が少しでも
安く、また物価抑制の目玉にとい
う意味で、こうした措置がとられ
るのは。決して悪いことではな
い。
 しかし、それが現在の財政危機
につながり、二倍論が生まれる元
にもなってきているのです。
 せめて物価平均ぐらいに運賃が
上がってきていれば、ここへきて
これほどの問題にならないで済ん
だといえるでしょう。
 いずれにせよ。運賃が二倍とい
うことになれば、これはあなたに
とって切実な、しかも由々しい問
題になるでしょう。
 それは私も重々承知しています
し、こんな話がつらくないわけが
ない。

 

 しかし、これは私にとってもい
まや切実な重大な問題なのです。
その経費をまかなえる運賃を、と
いうことなのです。
 もし、あなたが私のお願いする
運賃値上げを認めないとおっしや
れぱ、これまでのように、当座は
借金でまかない、将来に禍根を残
し、あなたの子孫に過大な負担を
かけるか、利用するしないに拘ら
ず税金という形で等しく国民に負、
担して頂くことになるかです。
 さもなければ、国鉄としての役
割が果たせなくなってしまうので・
す。

 

 その意味で、運賃は本当はあな
たが決めるものなのです。

 もちろん、こうして経費に見合
う運賃を払って頂いても、これま
での六兆七千億円という莫大な借
金は未解決のままで残ります。
 これに対する何らかの手当てが
必要なことはいうまでもありませ
ん。

 ながながとお話をしましたが、
私の切実な願いは、あなたの理解
を得て、あなたの先祖に育てて頂
いたように、健全な国鉄に育て、子
孫に国鉄という日本の財産を引き
継いで貰いたいということです。

 あなたのご意見やご批判をお寄
せください。
           (終り)

(ボールド化はBlog主)


全面広告はこのようなものだった。後に「三人組」として名を馳せる当時広報部次長井出正敬が執筆担当者。

線路は続く 目次

 

REMEMBER3.11

不断の努力「民主主義を守れ」