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戦後民主主義の欺瞞3

右派も左派も行き詰まる(一つの特徴は)対話すべき主体の力が低くなっているということです。
それを変えるためには(対話すべき主体に)力をつけるしかありません。
たとえば家族政策については、知識の普及や相談所の充実です。
男女の役割が変わっていることを教育で教える。最低限の家事を誰でもできるように講習する。
医療では、医学知識を普及させ、自分で(ある程度の)予防できるようにする。
あるいは情報を理解して治療法を選択できるようにする。
労働政策なら、失業した人あるいはよりよい就職をしたい人には職業訓練を行って自力をつける。
だれでもキャリアアップできるように、大学をはじめ高等教育はできるだけ無償化する。
政治ならトップダウンを避け、情報公開と公聴会などで(政治への)参加をうながす一方、政治についての知識を普及させ、人びとの自治能力を高める。
NPOの認可と助成、寄付税制などの仕組みをつくり自発的活動の活性化をうながす。

従来の政策では問題が発生したら対処する、という発想をしています。
失業したら失業(雇用)保険をだす。離婚して母子家庭になったら手当てを出す。
病気になって医者にかかたら保険が適用される。陳情やロビイングがあったら対応する。

こういう発想です。

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こうした従来の発想の問題点は、問題がおこってからでは遅すぎること、また問題がおこってから対処したのではコストが高すぎることです。
病気になってから治療費としてお金を掛けるよりも、病気にならないよう予備知識を普及させれば財政にとっても個人にとってもいい。

再帰性が増した現代では、お金(雇用保険)を支給すれば一定期間のうちに必ず再就職する、なぜなら人間は伝統的に勤勉だから、といったことは成りたちません。
主体の力が弱っているときは、教育や相談、再訓練といったエンパワーメント(強化)をして、社会に包摂しないと、立ち行かなくなったのです。結果としてそのほうがコストも安い。
2012年政府発表で、大卒・専門学校卒の52パーセント、高卒の68パーセントが、無業・一時雇用や三年以内での離職など、安定した雇用に就けていないとされました。
2009年の(ボイバン教授による「妊娠にたいする意識調査」)調査によると日本女性の妊娠に関する知識は、調査対象18カ国のうち17位で、トルコについで低く、男性もトルコ中国についで低い16位でした。

それでも日本ではまだ、「一億総中流」時代からの意識転換がすすんでいないようです。公立学校に競争意識を導入しろ、それで成績が悪ければ小学校から留年させろという意見もありますが、
留年させても自発的に勉強するだろう、なぜなら日本は勤勉社会だからだ、といった甘い発想が根底にある。
初等・中等教育で留年したら、予算を投入して丁寧にケアしないと滞留してドロップアウトにつながりがちだということは、先進諸国ではほぼ体験済みです。

社会保障論などで提唱されているのは、基本保障の発想です。
たとえば、貧しいものだけに奨学金を出すというのはカテゴリー(としての捕らえ方)の発想です。
大学教育無償化は基本保障の発想です。
現状の日本の生活保護は弱者救済ですが、最低賃金は基本保障です。
性役割や医療の知識の普及は(カテゴリーとしてとらえるのではなく)誰にたいしても行うものです。
カテゴリーの発想の問題点はよほどきちんと制度設計しないと政策がつぎはぎになり、不公平や不合理が生まれやすいことです。
たとえば日本では、公定の最低賃金で働くよりも、生活保護を受けたほうが、ましな生活ができたりします。
現在の生活保護の水準は、1960年代前半に、子どもがいる日雇い労働者家庭が「健康で文化的な生活」を遅れる最低保障基準として設定されたことから発したといわれます。
ところが最低賃金のほうは経済界の反対で上がらず、70年代に主婦パートが増えると相対的には下がりました。生活保護より最低賃金のほうが低かったら、働かないで生活保護をうけたいという人が増え、本当に保護が必要な人まで受給審査を厳しくするという事態になりかねないという警告を無視したのです。
-「社会を変えるには」 小熊英二 から抜粋-

 

 

REMEMBER3.11

不断の努力「民主主義を守れ」