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日本の鉄道はこのままでいいのだろうか 10 交通権とは

2017年4月旧シリーズ名「鉄道運賃はこのままでいいのだろうか」をタイトル変更しました。

国土交通省に「わが国における交通基本法と『交通権』の位置づけについて」という文章がある。これは「交通権」というものについて国としての意気込みを語るものである。

http://www.mlit.go.jp/common/000130170.pdf

その要点は

「わが国における交通基本法と『交通権』の位置づけについて」
  • 日本各地で移動が困難になる人が急速に増え、今後一層の増加が確実
  • 戦後日本が到達した経済発展とは著しく乖離した「生活交通」の貧困危機的状況
  • 交通政策を大きく転換し、まち・地域づくりと交通権保障の両輪でだれもが安全で安心して移動できる豊かな社会を実現する必要がある
  • 急速な高齢化の進展で豊かな生活の質を規定する基礎・土台として公共交通を位置づける
  • 公共交通が不十分であれば、医療・福祉・教育あるいは観光等も十分にその成果が出せないので地域公共交通・生活交通の構築を急ぐことが重要
  • また人と環境にやさしい公共交通機関の実現が切に望まれているが、持続可能な交通システム、環境負荷の少ない公共交通を維持発展させること
  • 交通基本法では用語「移動権」よりも、現代社会の交通の権利として「交通権」を採用することが望まれる
  • 憲法上保障された基本的人権を実質的に保障するものとして国および自治体は国民・住民の交通権を保障する義務を負う

となっている。
 そして交通権学会という学会からも下記「交通権憲章」というものが披瀝されている。

「交通権憲章」
  1. 第一条 平等性の原則
    人は、だれでも平等に交通権を有し、交通権を保障される。
  2. 第二条 安全性の確保
    人は、交通事故や、交通公害から保護されて安全・安心に歩行・交通することができ、災害時には緊急・安全に避難し救助される。
  3. 第三条 利便性の確保
    人は、連続性と経済性に優れた交通サービスを快適・低廉・便利に利用することができる。
  4. 第四条 文化性の確保
    人は、散策・サイクリング・旅行などを楽しみ、交通によって得られる芸術鑑賞・文化活動・スポーツなど豊かな機会を享受できる。
  5. 第五条 環境保全の尊重
    国民は資源を浪費せずに地球環境と共生できる交通システムを積極的に創造する。
  6. 第六条 整合性の尊重
    国民は陸・海・空で調和がとれ、しかも住宅・産業施設・公共施設・都市・国土計画と整合性のある公共交通中心の交通システムを創造する。
  7. 第七条 国際性の尊重
    国民は、日本の歴史と風土に根ざした交通システムの創造と交通権の行使によって、世界の平和と福祉と繁栄に貢献する。
  8. 第八条 行政の責務
    .政府・地方自治体は、交通に関する情報提供と政策決定への国民の参画をつうじて、利害調整に配慮しながら国民の交通権を最大限に発展させる責務を負う。
  9. 第九条 交通事業者の責務
    交通およびそれに関する事業体とその従事者は、安全・快適な労働環境を実現し、その業務をつうじて国民の交通権を最大限に保障し発展させる責務を負う。
  10. 第十条 国民の責務
    国民は、交通権を享受するために国民の交通権を最大限に実現し、擁護・発展させる責務を負う。
  11. 第十一条 交通基本法の制定
    国民は、交通憲章にもとづく「(仮称)交通基本法」の制定を国に要求し、その実現に努力する。

交通権学会 Association for the Research of Transportation Problems and Human Rights

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* 

交通は、人や物の移動に必要不可欠なものであり、あらゆる活動の基礎ともなるべきもの。その移動の自由、交通権を護るためには何が必要なのであろうか。
自家用車が交通手段として重要な社会的役割を果たしていることは事実であるが、一方自家用車を運転できない高齢者や体の不自由な人々の、職場への通勤や病院通い、買物に不自由なく移動できる、足としての手段・公共交通が各地で失われてゆきつつある。
 いわば自家用車を使える人と使えない人の間に移動の自由の格差が広がっている。いまここで誰もが利用でき、将来にわたり持続可能な公共的交通手段のベストミックスを確保する必要がある。
 そして大気汚染の問題も大きい。日本における交通部門からのCO2排出量は2割、そしてその中で相対的に優れた乗り物は鉄道になる(一説には交通部門の中で自家用車の炭CO2排出量は9割になるといわれている)。

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http://wwwtb.mlit.go.jp/hokkaido//bunyabetsu/kankyou/ecotsukin/3document03.pdf

 より


 交通権を保障するためには、地域の実態に合うように地域公共交通を維持・再生し、活性化させていくことも必要である。しかし、地域公共交通をめぐる状況は大変厳しくなっており、地方のバス、タクシー、鉄道、旅客船 の旅客数は過去10年間で2割減、20年間で4割減と落ち込み、赤字の 会社が増え、運行の維持が困難なところが増えている。採算をとろうと して運賃を上げようとすると、客離れが起きるという悪循環に陥ってしまうが、このまま放置しておくと安全で安心な輸送が脅かされない。
 また、 交通施設や乗り物のバリアフリー化も道半ばの状況であり、人々の移動権を充足するためには、これらを誰もが利用しやすいユニバーサル・デザインにすることも望まれる。

これらの意見を踏まえて2013年に交通政策基本法が制定された。

交通政策基本法

しかし残念ながらこの法案では上記文章に意気込まれた「交通権」についての観念は盛り込まれず、まさに上記文章より後退した姿勢が強い。
その端的な例 第16条に

交通政策基本法 第十六条「国は、国民が日常生活及び社会生活を営むに当たって必要不可欠な通勤、通学、通院その他の人又は物の移動を円滑に行うことができるようにするため、離島に係る交通事情その他地域における自然的経済的社会的諸条件に配慮しつつ、交通手段の確保その他必要な施策を講ずるものとする」

「地域における自然的経済的社会的諸条件に配慮しつつ」なんて猶予条件が付加されてしまった。
 これでは経済的側面を取り上げれば、地方赤字路線は住民の「交通権」にかかわらずほぼ廃線必死ということになる。
このサイトにも注目 

地域公共交通再生の実現へ向けて ~ 交通政策基本法の必要性 | 小嶋光信代表メッセージ | 両備グループ ポータルサイト - Ryobi Group -


人と環境にやさしい公共交通機関をこれから創設して行くのではなく、今ある公共交通機関を維持しながら、人と環境にやさしい公共交通機関に作り替えてゆこうという視点が重要なのではないか。日本には世界に誇れる交通路線網が(今のところ)ある。

参照  日本の鉄道はこのままでいいのだろうか 6 - 紙つぶて 細く永く 

これが将来にわたって存続できるかどうか、いまこそ市民の目が必要となっている。

その観点から以下の記事にあたるとどう感じるだろうか (インタビュー)「鉄路半減」の挑戦 JR北海道社長・島田修さん:朝日新聞デジタル

<抜粋>

国会では、麻生太郎副総理兼財務相が「黒字のJR東日本と北海道を合併するとか、いろんなアイデアが出る」と答弁しました。どう受けとめますか。


JR北海道社長 「安倍晋三総理が『一政治家として大胆な考え方が提示された』とフォローされましたが、まさにその通りです。JR東日本には、上場企業として株主への責任もあります」

 

上記の文章と下図を参照にし、正しい答えを下記A及びBから選びなさい。

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A)
下記でいう赤字部分が抜け落ちている。

 「安倍晋三総理が『一政治家として大胆な考え方が提示された』とフォローされましたが、まさにその通りです。しかしJR東日本には、上場企業として株主への責任もありますので、その手前JR東日本JR北海道との合併なんてものはそう簡単には切り出せない

B)
下記でいう赤字部分が抜け落ちている。

 「安倍晋三総理が『一政治家として大胆な考え方が提示された』とフォローされましたが、まさにその通りです。JR東日本には、上場企業として株主への責任もありますので同じく鉄道再生を目指すグループJR会社としてぜひ、JR北海道吸収合併の方向を打ち出してほしい

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