紙つぶて 細く永く

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朝日新聞社第三者委員会

朝日新聞社第三者委員会による報告が出た。

戦争というものの実態を知るわけでもないので、当然確定的なことは言えない立場である。
しかし、ある意味その空間では絶対的暴力装置として存在する軍隊において、人間の良心だけで理性ある秩序が常時保たれる訳はないと考える。実際に戦地に赴いた多くの識者がその事実を記録している。大岡昇平しかり、高橋源一郎の記事

文章問題 - 紙つぶて 細く永く)

 しかりである。
1点の記事取り消しについての論争=「一面突破全面展開の論争」でこれを覆そうと目論むには無理があるのではないか。
第三者委員会の各委員が最後にコメントを残しているが、そこにはそのような立場で(ありながら)私事についての反論を試みる委員や、全く関係のない記事に言及し「物事をもっぱら政府対人民の図式で考える」な、と比喩する「歴史修正主義」の立場からの意見も載っている。
救われるのはその中での下記保坂委員のコメントである。

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 (6)保阪委員
 「軍隊と性」という視点
 慰安婦問題の本質は[軍隊と性]である。 もっとかみ砕いて言うなら「軍隊と性病」と言っていい。歴史上、あるいはどこの国でも、この関係にはきわめて神経質だった。旧(日本)軍の高級将校の証言によれば、陸軍大学校でもこの恐怖についての講義はあったというし、将校として兵士を教育訓練するときも性病については特に熱心に行われたという。
なぜなら、1部隊に10%もの性病患者が生まれたら、その軍隊はすでに戦う軍隊ではなくなる。10%は、20%、30%と、またたくまに患者の比率を増やすからである。
 性病を恐れるがゆえに、どの国の軍隊も性の管理は徹底している。むろん国によって、時代によって、その管理の方法は異なっている。旧軍の場合は、大体が部隊長の命令のもと、主計将校、軍医がこの管理にかかわる形をとる。慰安所建設、慰安婦募集、そして性病検査は、いわばシステム化されていて、3者のトライアングルの中で「秘密」が共有されるケースが多い。ここが密閉されれば、管理の実態はわからない。
 今回の慰安婦問題は、その管理に軍がどういう形で関与したか、慰安婦募集に強制があったかなかったか、さらにそこに植民地政策に伴う暴力性があったか否かなどの検証であったが、あえて言えば一連の慰安婦問題は全体の枠組みの中の一部でしかない。一部の事実を取り上げて全体化する、いわば一面突破全面展開の論争でしかなく、私は委員の一人として極めて冷めた目で検証にあたったことを隠すつもりはない。
 1990年代の朝目新聞慰安婦報道は、むろん朝日だけではなく、各紙濃淡の差はあれ、同工異曲の報道を続けていた。ありていに言えば、朝日はその中で、事実誤認を放置したことや取材対象者との距離のとり方が極めて偏狭だったことは事実である。私見では、他紙と比べると慰安婦報道へのアプローチが積極的であり、それゆえに他紙は誤認の汚名を免れた側面もあるように思う。
 委員会のこの検証は、「軍隊と性」というテーマを具体的に確かめていくわけではなく、いわば1980年代、90年代の朝日報道を検証するだけであった。
そのことは、戦後日本の「戦争報道」は、ある部分に執拗にこだわり、それが国際社会の作り出している潮流と結びついていたことを教えている。同時に、朝日報道への批判の中に、むしろ歴史修正主義の息づかいを感じて、不快であったことを付記しておきたい。
 慰安婦問題は、もっと根源的、多角的に考えることにより、日本社会の歴史検証能力は国際社会の中に独白の立場を保ち得るはずである。

参考 朝日新聞社第三者委員会のメンバー
中込秀樹、岡本行夫北岡伸一田原総一郎、波多野澄雄、林香里、保坂正康



 

REMEMBER3.11