紙つぶて 細く永く

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脊椎圧迫

先月に兄が庭作業をしていて柵から落ち、(後で本人曰く)肩を強く打ったことから、倒れたまま動けなくなり言葉もでなかった。
偶然当日は連れ合いが休日で、つまり動けない本人の周囲に人がいた。
いつもならその時間一人でいる兄は、だれにも見つけられることなく数時間そのままの状態であったろう。その間に内出血が進めば命にかかわることになったかもしれない。
しかし当日は勤務が休みであった兄嫁がいた。数分後に気づき救急車を手配、最寄りの病院に運び込まれた。だがその病院では手当ができないとのことで、急きょヘリコプターで大病院への移送となった。車なら1時間30分はかかる道のりであるがわずか8分で到着したとのことである。
その兄嫁からの電話があり、仕事中のわたしにかわって、私の連れ合いが病院へ駆けつけた。
まだ兄嫁が病院へ向かう道中、病院へ到着する前に私の連れ合いが病院についた。連れ合いはその日偶然訪れていた孫を一緒に連れていた。ストレッチャーに乗った兄は気丈にその幼い孫たちに微笑みそしてジョークを頻発した。

個室に入れられた兄を見舞ったのは夜になっていた。四肢をベッドに置いた姿で言葉だけは変わらず陽気な兄がそこに居た。主治医からの説明があり、病名は脊椎圧迫症。
医師の説明ではやはり頭を強打したようだ。
「丁度洗濯物を干すときのような恰好をして見てください。患者はその時の角度が少なかったはずです。この角度が少ない人ほどこのような強打には耐えがたいのです。
結果首が衝撃を受け、脊髄付近に内出血が発生しました」
「内出血は止まっています。圧迫により四肢への神経が一時的に麻痺しているのだろう。神経がつながっているのなら圧迫をとれば回復も望める。しかしいま脊髄を手術するか否かは少し時間をまって検討しましょう」

このような説明であった。数日して主治医は手術をするという判断を説明してくれた。
手術としては多くの整形外科医師が少なからず行う一般的なもの。しかし少ない比率ではあるが脊髄を触るので危険性はある。と我々を気遣ってか少し言葉を濁しながらの説明であった。「手術には立ち会ってください。あとは手術日をいつにするかスケジュールを調べましょう。私も手術を受ける予定がありますので」とあっさり話し、はてなといぶかしがる我々を前につづけた、「以前スキーで踵の骨折をしたのですが最近いい手術法が開発されたので踵の手術を受けなおすのです」ということであった。
そして件の「踵の手術日」前日に家族らが見守る中、「少し緊張するね」ということばとともに兄は手術室に入った。

横臥する姿勢で数時間、最近の麻酔はこの程度の手術なら一部麻酔ということであった。無事手術は終わり主治医は思ったより内出血が広がっていたので手術をしてよかったと告げた。
翌日になって、右手・右足が少し動いた。相変わらず饒舌な様子で見舞いの人や看護師を笑わせた。日一日と経過し当初は一進一退であった回復がある日突然右手が大きく動くようになった。本人は自己リハビリと自慢するがなぜかはわからない。

四人部屋に移った兄の部屋には同じ症状の人ばかりであった。脊椎圧迫では著名な病院となっているようだ。入院した時期が異なるからか、部屋に移った翌日当然のごとく普通に歩いて退院する人がいた。兄から部屋の「同僚」の話を聞くたびに、「私」もリハビリをして歩いて退院したいという希望を感じる。
現在では最初は動かなかった手でコップの水が飲める。筆をとった時に「リハビリに励みます」とそこそこの文字で書き上げた。「立派な文字だ」という周囲の言葉に本人もまんざらではないようだ。   REMENBER3.11