紙つぶて 細く永く

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思いをはせる

昔住んでいた土地に書店のアルバイトをしていた人がいた。
連れ合いが同じくその書店でパートとして働いていた。
連れ合いの話でその東北出身のアルバイト店員を知った。年は40才くらいだったと思う。

その土地では老舗となる書店で数か所に店を構えていた。
老舗というしがらみからかその土地の表口としての駅に小規模な店舗を構えることとなった。
書店業界でもご他聞にもれず大規模店しか生き残れないという状況でこのような小規模店の経営は大変だろうと思った。
その小さな書店を上記アルバイト店員が暖簾分けで経営することになった。
私も何度か駅に立ち寄りその店で話をするうちにお互いに言葉を交わすようになった。
なんでも奥さんはフランス語の翻訳をしていたという。都会ではそんな稼業で生活をしていたのだろう。
しかし田舎の小都市ではなかなか翻訳という稼業も成り立たない。
地方めぐりをしていた私も出かける先で口を探した。
こればっかりは資格があるものでなしその様な手段で新しい口はうまくまとまるものではなかったし、
そのような需要自体が見つからなかった。

そのような会話をする中で作家佐伯一麦の名前が出てきた。東北つながりで知り合いらしい。
早速「ア・ルースボーイ」を読んだ(と思う)。
その後私はその土地を離れた。
先日書評に紹介された佐伯一麦「渡良瀬」をそんな謂れもあり読んだ。
8年間電気工をしていた首都圏から家族のためを思い茨城県西部に越してきた主人公、この土地で配電盤の製造工場に勤める。
小説は昭和天皇の病状経過を交えながら展開する。すなわち昭和の終わりの時である。
東京で生活する主人公が子供の喘息を少しでも和らげようと都会を離れる。夫婦と子供三人五人の物語である。
主人公はまず家族を愛す。そして地域に根付き、会社にも認められる。
子供たち特に上の娘にたいする「暴言」で気まずくなった妻との関係も妻が少しづつ地域になじむことでよくなってゆく。
何より主人公は三人の子供たちのそれぞれの成長を考える。
作者はこの小説の背景に淡々と報道される昭和天皇の最後の病状経過を加えることによって昭和から平成への時代変換を語る。

各個人が空間的・時間的に思考、いや日常感覚がどこまで及ぶかによってその人の考えるところは大いに変わるようだ。
家族・地域・業界・地方・民族・国家そして古代・封建社会・近代社会・現在・未来
そんな中「Japanese Only」の横断幕が話題になった。
日本のサッカーとくにJ1のサポーターには「旭日旗」を振り回すなど偏狭な懐古主義というイメージが感じられる。
まずもって国内チームとの試合で「Japanese Only」とは往年の頑固親父の思考だ。

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保守思想とは過去に理想社会を求め、革新思想は将来に理想をもとめるものという。保守革新いずれも自身の頭にどの空間的・時間的広さに思考を及ぼし理想を求めるのかがおおいに問われる。
思いをはせる遠い悠久のシルクロード、砂漠に浮かぶピラミッド、モンサンミッセル、ラグビー校、ユカタン半島にある約6550万年前の小惑星衝突跡、卑弥呼の銅鏡、羅生門兵馬俑、ラスコー洞窟、スプートニクス、ガガーリン、「2001年宇宙の旅」、「パーフェクトワールド」、「極限の民族」、「三国志」、「論語」、第4代国王の世宗、夏目漱石中上健次加藤周一北山修藤沢周平、離れ行く「ボイジャー」、ビッグバン、交響曲第6番「田園」、ビルエバンス、ブルーススプリングスティーン、CCR(連想ゲームみたい・・)
思いをはせるのは自由だ。

書店業界の人と話をすると、彼のように素晴らしい経歴のひとがいるんだなとよく感じる。
本が好きというだけでは経済の中困難を乗り切ることは容易くない。
しかし件の店は健闘しているようだ。

 

REMEMBER3.11

不断の努力「民主主義を守れ」