紙つぶて 細く永く

2014年6月以前の記事は旧Blog(OCN)からinportしたものそのままです。鋭意改善中です。<(_ _)>

村上スピーチ

 壊れた道路や建物を再建するのは、それを専門とする人々の仕事になります。
しかし損なわれた倫理や規範の再生を試みるとき、それは我々全員の仕事になります。
我々は死者を悼み、災害に苦しむ人々を思いやり、彼らが受けた痛みや、負った傷を無駄に
するまいという自然な気持ちから、その作業に取りかかります。
それは素朴で黙々とした、忍耐を必要とする手仕事になるはずです。晴れた春の朝、
ひとつの村の人々が揃って畑に出て、土地を耕し、種を蒔くように、みんなで力を合わせて
その作業を進めなくてはなりません。一人ひとりがそれぞれにできるかたちで、
しかし心をひとつにして。
 その大がかりな集合作業には、言葉を専門とする我々=職業的作家たちが進んで関われる部分が
あるはずです。我々は新しい倫理や規範と、新しい言葉とを連結させなくてはなりません。
そして生き生きとした新しい物語を、そこに芽生えさせ、立ち上げてなくてはなりません。
それは我々が共有できる物語であるはずです。それは畑の種蒔き歌のように、人々を励ます律動を
持つ物語であるはずです。我々はかつて、まさにそのようにして、戦争によって焦土と化した
日本を再建してきました。その原点に、我々は再び立ち戻らなくてはならないでしょう。
-村上春樹カタルーニャ国際賞授賞式 スピーチ抜粋-
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