紙つぶて 細く永く

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吾れ日に三たび吾が身を省みる

もう言葉さえ失ったという気分ですが、いまどうしても強く指摘したい。
その気分を、山口二郎さんに代弁していただきます。


菅政権には、速やかに二次補正予算を編成し、被災地の復旧のために惜しみなく
予算を投入することが求められる。財源をどうするかは後回しでよい。
家族が病気で死にそうな時に、先に手術費用の算段をする人はいないであろう。
まず緊急の治療を行った上で、そのための費用は後で工面すればよい。
当面、少しくらい国債発行を上積みしたからといって、何の不都合があるのだろう。
 菅政権の対応が不十分であるならば、他の国会議員はそれを政局の種に
するのではなく、具体的な対策論議を国会主導で進め、政府の尻を叩くこと
こそ任務である。特に与党を見れば、政務三役以外の議員が何もできないと
不平をこぼすのをしばしば耳にする。国会議員がどれだけの力を持っている
かを国会議員自身に説教しなければならないのは情けない話であるが、
そんな愚痴をこぼす前にできること、なすべきことはいくらでもある。
 五月二三日に、参議院行政監視委員会で今まで原発の危険性を科学的に
指摘してきた三名の学者と孫正義氏を招いて、意見陳述を求めた。これなど、
今まさに国会が役割を果たした実例である。
原発事故については、野党が政府の不手際を攻撃するという構図は成立しない。
自民党こそ、過去数十年、まっとうな批判や疑問にすべて蓋をして、原発
安全だという神話をまき散らした張本人だからである。
与野党を問わず、なぜこのような脆弱な原発を放置したのかを謙虚に反省し、
行政上の要因について厳しく点検しなければならない。
この参考人招致は、そうした国会の真摯な取り組みとして評価したい。
 民主党の反主流派と野党が政権に不満を持つなら、そのエネルギーを政局
ではなく、建設的な政策論議と厳しい行政の検証にぶつけるべきである。
国会は国政調査権を持っている。今まで野党が政府の失態を追及したくても、
与党がそれを拒んできたため、国政調査権は絵に描いた餅であった。
与野党を超えて政府を追及するという気運が高まっている今こそ、国政調査権
をフルに発揮するチャンスである。
参議院だけではなく、衆議院の委員会でも同様の活動をどんどんすればよい。
政府は目の前の問題を追いかけるのに必死だから、衆知を集めて政策を論議
したり、問題を歴史的、科学的に検証したりすることは困難である。
民主党の議員は、政治家の好き嫌いではなく、被災地の窮状を思い、復旧のために
何をなすべきかを第一に考えて行動すべきである。
自民党には、過去半世紀の原発推進政策について、返り血を浴びる覚悟で検証する
ことが求められる。
政治家による政治家のための権力闘争は、政党政治に対する国民の不信を深める
だけである。
政治家が誠実に自分の役割を果たす姿を見せることこそ、
彼らにできる被災者支援の行動である。

(この文章には前段に心打つ部分があります。それを以下に記載)

カミュの『ペスト』という小説を読んで、政治家にも紹介したいメッセージを見つけた。
これは、ペストの発生で完全に封鎖された都市で、患者を治療する医師、
リウーの闘いを描いた物語である。リウーは言う。
「今度のこと(ペストの流行)は、ヒロイズムなどという問題じゃないんです。
これは誠実さの問題なんです。こんな考え方はあるいは笑われるかもしれませんが、
しかしペストと戦う唯一の方法は、誠実さということです。
(誠実さとは何かと問われて)
僕の場合には、つまり自分の職務を果たすことだと心得ています」
 市町村職員、消防、警察関係者をはじめとして、多くの名もない人々が誠実に不条理と
闘っている。その姿を見れば、政治家が何をなすべきか、少なくとも心構えの有り様は、
すぐに分かるはずである。

-山口二郎-  http://www.yamaguchijiro.com/