紙つぶて 細く永く

2014年6月以前の記事は元のBlog(OCN)からinportしたものそのままです。鋭意改善中です。<(_ _)>

海炭市叙景

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待った。ただひたすら兄の下山を待ち続けた。まるでそれが、わたしの人生の唯一の目的のように、今となっては、そう、いうべきだろう。
冬の夕暮れが急速に近ずいている。そろそろ見切りをつけるべきかもしれない。そのきっかけがわたしには見つからなかった。第一、まだ希望を持っていた。ロープウェイの正面玄関のガラス戸に、雪まみれの兄のこごえた、けれどもあの明るい笑顔がひょっこりあらわれるのが眼に浮かぶ。
-佐藤泰志海炭市叙景」-

・・・けれども兄は現れなかった。

海炭市叙景」その後

著者は芥川賞三島賞の候補にもなり今後が期待されていたが、
1990年、41歳の若さで自ら命を絶った。遺作となった本書は彼の故郷、函館市をモデルにした架空の町が舞台の未完の連作短編集。
単行本は長らく絶版となっていた。
その死から20年。函館市のミニシアターの支配人の働きかけで有志が集まり、本作の映画化が実現。製作実行委員の一人がツイッター上に「どこかで文庫にしてくれないか」と書き込んだところ、函館市出身の編集者、村井康司さんの目にとまり、文庫として復刊が果たされた。映画の公開と前後して熱くプッシュする書店も多数出現。
多くの人の思いの連鎖によって今、着実に版を重ねている。
さびれゆく北の町、海炭市に暮らす老若男女が登場する18編を収録。炭鉱を解雇された兄とその妹、妻の不貞を知ったプラネタリウム職員、立ち退きを拒む老婆、街から出ていくことを夢見る空港レストランのウエートレス。それぞれの労働生活と絡めながら、彼らの深い悩みや苦しみが浮かび上がってくる。
ままならない状況にあがく姿は、時に哀(かな)しく、時に無様ですらある。一編一編は短いが、これは日常の一部を切り取った軽い読み物ではない。たった数ページの中に、一人ひとりの人生そのものが詰まっているのだ。
「執筆された20年前といえば、首都ではバブルを迎える一方で、
地方では疲弊が始まっていた。今の日本の状況において、この小説は古びるどころかますますリアリティーを増している気がします」
と村井さん。だからこそ、彼らのどこかに必ず自分と重なる何かが感じられ、胸を突かれる。
しかし全編に漂うのは絶望感ではない。人々は厳しい現実の中でも光を探そうとしており、己の人生を肯定しようとする様はたくましく、愛(いと)おしくもある。今この時代にこの名作が復刊されたことは、非常に意味深い。
瀧井朝世(ライター)

廃れた炭鉱町で不器用に生きる人たちを描いた「海炭市叙景」。
昨秋に公開され話題を呼んだこの映画の原作は、41歳で自殺した佐藤泰志
5回も芥川賞候補になり、果たせなかった不遇の作家を最初に掘り起こしたのは、文弘樹さん(49)が主宰するクレイン(東京)だ。
出版社に10年勤めたが、納得のいく本をじっくり作りたいと1997年に独立。「自分と同じことに興味を持つだろう千人に向けて本を届けたい」と、年3冊ペースで出してきた。
在日の作家金鶴永の作品集を04年に出し評判になる。
埋もれた作家に光を当てることが小出版社の役割だと、根強い人気があるのに単行本が絶版状態の佐藤に着目、07年に目録つきの700ページ近い作品集を、1年がかりで仕上げ出版した。
これが佐藤の故郷である北海道函館市で話題になり、有志が寄付を集めて映画化。さらに小学館が文庫に。没後20年を経たブームのきっかけを作った。
「与えられた生の条件下で懸命に生きてこそ人の輝きがある。
そんな作品のメッセージが不況にあえぐ今の読者の心に響いたのか。
地道に売れたおかげで次の本が出せる」と文さん。

 

 

REMEMBER3.11

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