紙つぶて 細く永く

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文学

女のいない男たち 読後感

「女のいない男たち」村上春樹著 「まえがき」に記されているのは、いろんな事情で女性に去られてしまった男たち、あるいは去られようとしている男たち、の物語である。そうだろうか、この中の幾編かの小説はまさに女のいる男たちなのではなかろうか?作者の…

彼自身は長く門外に佇立むべき運命をもって生まれてきたものらしかった。 それは是非もなかった。けれども、どうせ通れない門なら、わざわざ其所まで辿り付くのが矛盾であった。彼は後ろを顧みた。そうして到底また元の路を引き返す勇気を有たなかった。彼は…

箴言6

「同じ両親から生まれて、同じ家で育って、同じ女の子で、それがどうしてそんなにがらっと色合いの違う人格になってしまうんだろう?どこにその、別れ道みたいなものがあるんだろう?一人は手旗信号サイズのビキニを着て、プールサイドでチャーミングにただ…

箴言2

漱石の「それから」のなかで,代助と嫂が対話をする。「一体今日は何を叱られたのです」「何を叱られたんだか、あんまり要領を得ない。然し、お父さんの国家社会の為に尽くすには驚いた。何でも十八の年から今日までのべつに尽くしてるんだってね」「それだか…

伊藤計劃「虐殺器官」

一気に読み進めた。著者は東京生まれで、武蔵野美術大学映像科を終え民法キー局系列のウェブ制作会社に勤務 在学中は漫画研究会所属*設定は9.11以降の近未来 SFで科学に裏づけされた?武装が出てくる。 「人口筋肉」からできたポッドや「神経マスカー…

最近読んだある本から:番外

山本 義隆彼は現在,駿台予備校で物理講師をしている.人気講師で,夏期講習の「東大物理」は満員になる.彼の著書,『新・物理入門 <物理IB・II>』(駿台文庫,1987年)は,難しいという意見がある一方で,物理が根っこから理解できた,学ぶことの面白さを…

原子力の欺瞞

ディーゼル・エンジンは二十四時間ずっと燃料となる重油を外から供給し続けてやらなくては動かないが、原子炉の方は年に一度の補給だけで熱を出し続けるのだ。言ってみれば、原子炉というのは下りの坂道に置かれた重い車である。必要なのはブレーキだけで、…

風たちぬ

そして、やがて、戦争が来た。日中戦争が拡大し、太平洋戦争がそれに続く。東京では誰も彼も「超憂国主義者」に変身し、巷には軍歌があふれていた。しかし、浅間山麓には、碓氷峠の彼方には、別天地が展けていた。そこでは春にこぶしの花が咲き、秋には澄ん…

愛読:文学

人間がまだ湿っぽい洞窟に住んでいた太古の時代から、人々は飽きることなく物語を語り続けてきた。友好的とはお世辞にもいえない獣や、厳しい気候から身を護りながら長く暗い夜を過ごすとき、物語の交換は彼らにとって欠かすことのできない娯楽であったはず…

カラマーゾフの兄弟

カラマーゾフの兄弟 再登場二度三度読み返した人もいるようだ。イワンの虜になった。イワンとアリョーシャ、イワンに魅かれるということは、読み込みが足りない証だそうだ。著者が「私の主人公」というほど肩入れしている、アリョーシャ・・*第二の小説で本…

カラ兄最終

「カラマーゾフの兄弟」は第一小説という設定で、アリョーシャはドストエフスキーが考えていた第二小説の主人公でもあった。精神的な父「ゾシマ」によって、俗界に出てゆくすなわち第二小説に向かう使命をうけていた。第二小説でアリョーシャは「テロリスト…

カラ兄6

「きみがもっと年をとったら、わかりますよ。年齢というものが、人の信念にどんな意味をもつかがね。 ぼくにはきみが、自分の言葉で話しているようには思えなかったんです」 * 「でも大事なのは、いまの時代、心神喪失をおこしていない人がいるのか、ってこ…

カラ兄 4・昨日の一言

人々が救われるのは、つねに救おうとする者の死後のことである。*もし、おまえのまわりの意地の悪い、冷淡な人たちがおまえの話に耳をかそうとしないなら、彼らのまえにひれ伏し、彼らに許しを乞いなさい。なぜなら、自分の話に耳をかそうとしないのはじつ…

カラ兄 その3

ヨーロッパに行ってみたいんだ、ここからそのまま出発する。行きつく場所が墓場だってことはわかってるさ。でも何よりだいじな、いちばんだいじな墓場だ、そうなんだよ!だいじな人たちがあそこに眠っている。墓石のひとつひとつが、過ぎ去った熱い人生や、…

カラ兄 その2

「最後にもう一度、はっきり答えてくれ。神様はいるのか、いないのか? これが最後だ!」 「じゃあ最後にもう一度いいますよ。いません」 「じゃあ、人間を嗤っているのはだれなんだ、イワン?」 「悪魔ですよ。きっとね」 -ドストエフスキー「カラマーゾフ…

カラ兄 序章

現実主義者は奇跡に心をまどわされることはない。まことの現実主義者で、かつ何の宗教も信仰していない人間は、どんなときも奇跡を信じずにいられる強さと能力をもっているものである。もしも目の前で、うむを言わさぬ事実として奇跡が起きたなら、現実主義…

分かりやすい文章

「このところ籠もりきりだと知っている編集者の旧友が、写真撮影を口実に都心へ呼び出し、それが終わると、赤坂のパリ式カフェに連れて行ってくれました。気後れしている老人に、国籍不明なほど若々しい身なりの老人が歩み寄って、力強く、ー裁判、おめでと…